2018
01.22

Physical Review Bに発表!
人工力誘起反応法(AFIR法)による結晶構造予測

研究研究紹介

Physical Review Bに発表!<BR>人工力誘起反応法(AFIR法)による結晶構造予測

▮ 研究成果概要

北海道大学大学院 総合化学院 量子化学研究室の高木 牧人(リーディングプログラム1期生)は、 結晶構造予測を行う新しい手法「PBC/AFIR法」を開発し、Physical Review B に筆頭著者として発表しました。本手法を用いて炭素の結晶構造探索を行った結果、ダイヤモンドやグラファイトなど、これまでに報告されている多くの構造もきちんと見つけた上で200種類以上の新奇構造が得られました。本手法は炭素結晶に限らず、原理的にはどのような結晶構造にも適用可能であり、今後はより複雑な結晶構造の予測・相転移経路の探索などへの応用が期待できます。

背景

材料の性質はその組成だけでなく、構造にも依存します。例えば、ダイヤモンドやグラファイトは炭素のみからできていますが、これらは結晶構造が異なるため全く異なる性質を示します。このように最安定な構造だけでなく、準安定な構造も重要な性質を持つ可能性があるため、近年は理論計算による結晶構造予測に注目が集まってきています。特に炭素は、グラファイト、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、M-carbon、Cco-C8 (Z-Carbon)など実験・理論の双方から多くの構造が報告されています(図1)。論文を投稿した時点で、炭素多形のデータベースには300種類以上の構造が登録されていました。(※1)。

 

図1. 炭素の有名な多形(一部)

 

 AFIR法(※2)は分子の効率的な反応経路網羅探索に向けて開発されてきた手法で、最近では有機化学反応の解析などで成果を上げています。また、AFIR法で異性化経路を探索することで効率的な構造探索も可能です。しかし、従来のAFIR法は結晶などの周期系へ適用することができませんでした。私はAFIR法を周期系(Periodic Boundary Conditions: PBCs)で使えるように拡張することで効率的な結晶構造探索を実現しました(※3)。

 

研究成果

開発した手法のテストとして炭素8原子が単位格子中に含まれている系(C8/unit-cell)を対象として結晶構造探索を行いました(※4)。この結果、274個の結晶構造が得られました。図2に得られた構造を安定な順に30個示します。炭素の結晶構造は様々な手法で非常によく調べられている系です。探索ではグラファイトやダイヤモンド、M-carbonなど先行研究で報告されている構造もきちんと見つかっています。さらに、得られた構造の中にはこれまで報告されていない比較的安定な構造が200構造程度含まれていることからも本手法を用いた結晶構造予測の有用性を示すことができました。探索で得られた全ての構造は論文のSupplemental Materialに掲載されています。

図2. 探索で得られた安定な30構造。構造の下のラベルには構造の名前(新しい構造の場合はnew)、空間群、相対エネルギーを示す。並進ベクトル(TV)はそれぞれ赤、緑、青の線で示し、単位格子中の原子はボールモデルで表示している。

社会的意義・今後の予定

本研究により結晶構造の自動探索できるようになりつつあります。自動探索では、誰が計算しても同じ結果を得ることができるので、計算が専門ではない方でも信頼性の高い結果を得ることができるようになります。結晶構造予測がルーチン的に行えるようになることで、理論・実験双方に大きなインパクトを与えることが期待されます。また、非常に多くの構造データを得ることができるため、マテリアルズインフォマティクスへの貢献も期待できます。今後は、本手法を分子性結晶などのより複雑な結晶に適用していきます。また、結晶構造予測だけではなく、相転移経路の網羅探索法・解析法の開発を行っていく予定です。

 論文情報

研究論文名:Global search for low-lying crystal structures using the artificial force induced reaction method: A case study on carbon
著者:Makito Takagi, Tetsuya Taketsugu, Hiori Kino, Yoshitaka Tateyama, Kiyoyuki Terakura, and Satoshi Maeda
公表雑誌:Physical Review B 2017, 95, pp 184110 (2017年5月30日Web公開)
DOI番号:10.1103/PhysRevB.95.184110

 

▮ 付記(科研費や助成金)

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」および北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)「独創的研究費」により助成を受け行われました。また、本論文の執筆にあたりALPの「英語論文校正支援」を受けました。

 

用語解説

※1 炭素多形のデータベースであるSamara Carbon Allotrope Database (SACADA) には現在522種類の構造が登録されています。(2017年9月現在)

※2 AFIR法はポテンシャルエネルギー曲面(Potential Energy Surface: PES)を効率的に探索する方法です。分子の安定構造はPESの極小点に対応します。化学反応を理解するためにはこの極小点と極小点を繋ぐ”峠”が重要です。しかし、実際のPESは複雑(N個の原子があった場合3N – 6次元)でこのような極小点と峠を網羅的に求めるのは困難でした。

 

図3. AFIR法の模式図

AFIR法のアイディアは反応物同士を押し付ける(または引き離す)というシンプルなものです(図3(a))。例えばAとBが結合し、ABができる場合の原子間距離(rAB)とエネルギーの関係(PES)は図3(b)の黒線のようになります。AFIR法ではAとBが近づくように力を加えます。具体的にはAとBの距離、rABに比例するエネルギー(αrAB)を加えます(反応する方向にポテンシャル曲面を傾けたような状態になります)。力を加えた関数(図3(b)赤線)上では傾いている方向に下っていくだけ(構造最適化)で簡単に反応物が得られます。また、この際に辿った経路から遷移状態も決定できます。多原子分子の場合にはAとBの選び方を変えて力を加えることで、様々な構造が得られます。さらに、得られた構造からも同じように探索することで構造と反応経路を網羅探索ができます。

※3 PBCでは、箱(単位格子)の中に原子・分子が入っており、それが周期的に繰り返している描像で計算を行います。格子の中身に関しては従来のAFIR法で扱うことができるので、本研究ではAFIR法で単位格子を扱う方法や、結晶構造の同一判定法の開発を行いました。

※4 厳密には、探索の効率化をするために次のような手順で探索を行っています。まずC4/unit-cellの探索をして、その結果を使ってC8/unit-cellの探索をしました。C4/unit-cellの探索はランダムに生成した1つの構造から探索を行っているので、計算者は一切構造を仮定せずに探索をしています。

 

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