2017
07.14

ChemPhysChemに発表!液中レーザー溶融法におけるナノ秒スケールの温度変化を解析

研究紹介数理連携

ChemPhysChemに発表!液中レーザー溶融法におけるナノ秒スケールの温度変化を解析

▮ 研究成果概要

北海道大学工学院プラズマ物理工学研究室の榊祥太(リーディングプログラム1期生)は、液中の粒⼦にパルスレーザーを照射した際に生じるナノ秒スケールの温度変化を解析し、研究成果を ChemPhysChemに筆頭著者として発表しました。液中レーザー溶融法は、急熱急冷プロセスを利⽤した新しい加熱法であり、従来の⻑時間加熱法と対極をなす⼿法です。本研究成果である粒⼦の加熱・冷却プロセスを理解することで、幅広い素材への展開や従来法では得られない新規材料の創出が期待されます。

▮ 論文情報

研究論文名:Pulse-Width Dependence of the Cooling Effect on SubMicrometer ZnO Spherical Particle Formation by Pulsed Laser Melting in a Liquid
著者:Sakaki, Shota; Ikenoue, Hiroshi; Tsuji, Takeshi; Ishikawa, Yoshie; Koshizaki, Naoto
公表雑誌:ChemPhysChem, 2017, 18(9), 1101-1107.(2017年2月15日web公開)
DOI番号:10.1002/cphc.201601175

▮ 研究背景・先行研究における問題点

液中レーザープロセスでは⾼密度・⾼エネルギー状態の液相反応場が容易に形成されます。この場を利⽤したものに、ナノ秒パルスレーザーを液中のナノ粒⼦に照射することでサブミクロン球状粒⼦を合成する⼿法があります(図1)。この⼿法は「液中レーザー溶融法」と称され、容器全体を⻑時間加熱する従来の⽅法と対極をなす局所(ナノ粒⼦)・短時間(ナノ秒)加熱の熱加⼯プロセスとして注⽬されています。しかし、この⼿法の特徴である局所・短時間加熱がナノ秒・ナノメートルスケールの現象であるため、粒⼦⽣成 プロセスを実験的に観察することは困難です。これは、粒⼦の特性(サイズ・結晶性・組成)を制御する⽅法や⾼効率の粒⼦合成法を確⽴する上で問題になっています。


図1:サブミクロン球状粒子の生成

▮ 着想に至った経緯

当研究グループでは、パルスレーザーのパラメータが⽣成粒⼦に及ぼす影響を評価することによって、粒⼦⽣成プロセスを理解することを⽬指しました。しかし、粒⼦の生成プロセスを理解するために導出した微分⽅程式が、学部で学んだ数学では解を得られない式でした。そのような状況のときに、ALPの必修科⽬であるフロンティア数理物質科学Ⅱを受講しました。この講義では、数学専攻出⾝の⿊⽥紘敏ALP特任准教授がALP⽣向けに数理連携のために必要な数学の基礎知識を紹介してくださいます。講義の中に数値解析の基礎を学ぶ機会があり、近似解法を⽤いることで⽅程式の近似解を⼀定の誤差範囲で求められることを知りました。この講義をきっかけに、粒⼦の加熱・冷却プロセスを求める理論モデルを構築して、習得した近似解法を⽤いて数値解析することを着想しました。これを QE1の課題に設定して、数学専攻の⻑⼭雅晴教授にアドバイスをいただきながら取り組みました。

 研究成果・数理連携の意義

本研究では、近似解法を用いて粒⼦の加熱・冷却プロセスを解析することに成功し、粒⼦の温度変化をナノ秒スケールで計算することができるようになりました。この解析では冷却の影響を考慮して粒⼦温度を求められ、粒⼦が融点以上まで加熱された場合にサブミクロン球状粒⼦を生成することが明らかになりました(図2)。以前は、レーザー照射前後の状態しか観察することができず、粒子が生成している間に起こる現象の理解が進んでいませんでした。フロンティア数理物質科学Ⅱで学習した数理的な知見を用いることで、現象の時間スケールや各パラメータの影響が数値化され、液中レーザー溶融法における粒⼦⽣成プロセスを予測することができるようになりました。


図2:最高到達温度の解析結果と生成粒子の関係

 社会的意義・今後の予定

液中レーザー溶融法を利⽤することで、従来の加熱では不可能な急熱急冷プロセスを実現することができます。液中レーザー溶融法の粒⼦⽣成プロセスを解明することは、急熱急冷プロセスの制御による新規材料の合成や、合成法の最適化による粒⼦の⼤量合成に繋がります。これらの成果によって、サブミクロン球状粒 ⼦の応⽤研究が活発化され、光学・医療・⼯業製品など幅広い分野に応⽤されることが期待されます。解析結果より、液中レーザー溶融法における粒⼦⽣成プロセスがどのような現象か明らかになりました。今後は、この知見から液中レーザー溶融法によって機能性粒子を合成するための適切な条件を予測し、実際に産業応用されるような新材料の創出を目指します。

 付記
本研究は、日本学術振興会による科学研究費助成事業、基盤研究(B)(課題番号:26289266)と若手研究(B)(課題番号:26870908)より助成を受け行われました。

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