2017
08.21

フィリピンでアウトリーチ活動を行いました!

フィリピンでアウトリーチ活動を行いました!

プログラム1期生7名のグループが、フィリピン大学マニラ校が主催する科学イベント Science Week 2017 に特別ゲストとして参加し、アウトリーチ活動を行いました。Science Week 2017 のメイン企画である Science Symposium と Science Camp でステージ発表と実験ブース出展をそれぞれ行い、両方とも大好評を博しましたのでその様子をレポートします。

Science Week はフィリピン大学マニラ校が毎年1週間開催するサイエンスイベントであり、Science Symposium という講演会と、Science Camp という実験教室がその目玉企画です。この取り組みは、文理さまざまな分野で学ぶフィリピン大学の1~2年生に対して最先端のサイエンスに触れ合う機会を与えることを主な目的として行われています。一方、ALPチームの Science Week 2017 への参加には、大きく分けて2つの目的がありました。ひとつは、北海道大学自体と、プログラム生が現在行っている研究活動をPRすることです。これは、参加学生の研究テーマが生化学から理論化学まで多岐にわたるものであったため、北大の多様な研究活動を知ってもらうための絶好の機会となると考えたからです。もうひとつの目的は、鉄の消化吸収や体内での代謝について生化学や医学の観点から知識を深めてもらうことです。これは、ヒトの鉄代謝の研究を分子レベルで行っている学生がチーム内に2人おり、この点に関して生化学の観点からの最先端の知見を提供することが可能であったためです。医学的な知見に関してフォローするために、フィリピン屈指の有名病院の血液内科医である Lucille R. Osias 氏にもチームに加わってもらいました。フィリピンでは鉄欠乏による貧血が社会問題化していることから、鉄代謝というキーワードはフィリピン大学の学生にとってキャッチ―なものであったと思われます。

両イベント(Science Symposium と Science Camp)は、平成29年4月26日の午前と午後にそれぞれ開催されました。午前中に行われた Science Symposium では、最先端の科学研究から得られた知見について複数の講演が行われました。その第1部では、The Chemistry of Addiction と題し、薬物による依存症が発生する分子レベル・細胞レベルでのメカニズムや、そもそも薬物依存が起こってしまう社会的要因についてのレクチャーが2名の招待講演者により行われました。続いての第2部では、スペシャルゲストとして北大ALPチームが紹介され、40分間のステージ発表を行いました。この発表では、はじめにフィリピン大学出身で大学院から北大に入学した Fatima Joy C. Cruz さんが代表して、北大とALPについての紹介を行いました。


写真:北大の紹介をするFatima さん

Fatima さんが、日本で最もきれいなキャンパスと称されることがある北大のキャンパスを写真で紹介すると、フィリピン大学の学生にとっても北大の風景は印象深かったらしく、会場は大いに盛り上がりました。続いて6名のプログラム生がそれぞれ自分自身の研究成果についてリレー形式で発表しました。この時も、たとえば「自分はこの化合物の全合成に成功した」とプログラム生が複雑な有機化合物の構造式を指し示すと、会場からは「おおー!」と温かい歓声が沸き起こるなど、終始和やかな雰囲気でプレゼンテーションは進行しました。


写真:有機化合物の全合成について発表を行う勝山さん


写真:温度応答性ポリマーについて発表を行う上西さん


写真:有機合成について発表を行う岡田さん


写真:理論化学について発表を行う蝦名さん


写真:電気化学について発表を行う山本さん


写真:ヒトの鉄代謝関連タンパク質について発表を行う西谷さん

細胞内での鉄代謝をコントロールするタンパク質に関する2人のプログラム生による研究発表を経て鉄代謝に対する関心が高まったところで、最後にDr. Osias がフィリピンにおける鉄欠乏性貧血の現状と対策等について医学的知見に基づいた40分間の講演を行いました。


写真:フィリピンにおける鉄欠乏性貧血について発表を行う Dr. Osias。

同日の13時から16時まで文理学部エントランスを会場として開催された Science Camp では、鉄の吸収に関連した実験を行う実験教室ブースを出展しました。行った実験は、緑茶に鉄イオン水溶液を混ぜると、不溶性の沈殿が生じることを確認するというものです。この現象は、お茶に含まれるタンニンが鉄イオンと結びつくことにより出現するものであり、この状態になってしまうと腸からの鉄吸収が阻害されてしまうということが知られています。この実験の体験を取っ掛かりとして、鉄イオンやヘム鉄が腸管から体内に吸収されるメカニズムについて、ポスターを用いた詳細な解説を行いました。この実験ブースには、午前中の発表を聞いた学生のほか、偶然通りかかった人たちもたくさん参加してくれました。実験を体験した学生は、「鉄イオンがお茶の成分のせいでこんな風に変化してしまうとは思わなかった」などと感想を話してくれました。中には、ポスターで解説した鉄代謝関連タンパク質の詳細に興味を示す学生もおり、鉄吸収や鉄代謝に関するマクロな視点からミクロな視点まで、多様な話題を提供する実験ブースとなりました。


写真:Science Camp の会場の様子。様々な実験ブースが立ち並びます。


写真:鉄とお茶を混合し、不溶性の沈殿ができてしまうことを実験で確認しました。右手前から勝山さん、山本さん、西谷さん、Fatima さん。


写真:岡田さん(右)と蝦名さん(左)がポスターを使って、人体で鉄が吸収されたり代謝されたりするメカニズムを解説しました。

今回のアウトリーチ活動は、初めて海外で開催したものであり、学生は事前の打ち合わせを10回以上行い、フィリピン大学の担当者とも入念な打ち合わせを繰り返し行いました。その甲斐あって、Science Symposium と Science Camp の両方とも滞りのない大成功を収めることができました。最も印象深かったのは、Science Symposium でのステージ発表に対するフィリピン大学の学生のノリのよさです。日本ではもしかしたらスベってしまうかもしれないような言動に対しても大笑いをしてくれたり、歓声を上げてくれたりしたため、発表がとてもやりやすかったとチームメンバーは口を揃えていいます。発表は物音を立てずに常に静かに聞くべきだと教えこむ日本のやり方が本当に国際的に正しいのかどうかについて考えさせられる体験でした。

今回のフィリピンへの訪問では、北大と友好関係にあるフィリピン大学ディリマン校やデラサール大学への訪問も併せて行い、両校の化学系学科関係者への挨拶とラボ見学等を行いました。ALPのサイエンスコミュニケーション・アウトリーチ活動について説明を聞いたデラサール大学理学部長は、「とても興味深い取り組みである。フィリピンの大学にとってもそのような活動はとても参考になる」と高く評価してくださいました。このような国際的な活動が本プログラムの「名物」として今後も学生に受け継がれていくことを強く期待したいと思います。

 

報告:北原 圭(リーディングプログラム特任助教)

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