リーディングプログラムでは、グローバルに活躍する人材には、科学技術政策の理解が必要と考えています。その一環として平成27年度にリーディングプログラム独自に実施した取り組みの中から2つのイベントを紹介します。
写真:北海道開発局の担当者から石狩川水系の説明を受けるJ・M・フルリー氏(中央)とプログラム生(右)
平成27年6月15日(月)、日本政府が行っている科学技術を基盤とした事業のなかから、国土交通省の治水事業を見学しました。見学ツアーは、札幌の隣町・石狩市にある石狩川治水史資料館「川の博物館」での同省が管轄する石狩川水系の概要説明からスタート。徳川時代の本州での実績を引き継ぐ形で明治期に始まった北海道での治水事業の歴史と、泥炭と呼ばれる石狩平野の軟弱地盤層での洪水を克服した技術を学びました。引き続き石狩川方水路の河口地区の施設へ。電波により石狩平野の降雨状況をリアルタイムで観測する「Xバンド・レーダー」と増水時の石狩湾への「放水ゲート」を見学。現地の制御室だけではなく札幌の事務所からも遠隔コントロールできると聞き、災害を防ぐために多重化した設備に感心しました。
写真:札幌市第二の水がめとして建設された定山渓ダム施設見学の様子
河口施設見学の後は、山間部にある2つのダムへと向かいました。まず訪れたのはアーチ式構造である豊平峡ダム。普段は公開されていない放水口のすぐそばまで、ダム内部の構造を見学しながら進み、間近で流れ落ちる水流に圧倒されました。続いて、重力式構造である定山渓ダムを訪問。水の重みでダム本体が膨らみセンチ単位で位置が移動する現象の計測装置なども見学し、細やかな放水制御への理解を深めました。この2つのダムはいずれも洪水調整、水道用水、水力発電という3つの役割を担いながらもその構造は大きく異なっており、フィリピン国籍のプログラム生は「母国のダムよりずっと高度な構造と制御にびっくりした」との感想を北海道開発局の担当者に伝えていました。この日のツアーには世界科学ジャーナリスト連盟の相談役であるJ・M・フルリー氏がオブザーバーとして同行し、プログラム生に欧米の脱ダムやダム撤去の政策などを紹介。別の視点からのアドバイスは、多角的な理解に効果があったようです。
本学フロンティア応用科学研究棟で講演する Alberto Mengoni 博士(駐日イタリア大使館 科学技術担当官)
7月29日(水)には、海外の科学技術政策をキャッチアップするAmbitious物質科学セミナー「Science and Technology in Italy」を、本学フロンティア応用科学研究棟で開催しました。駐日イタリア大使館の科学技術担当官であるA.メンゴーニ博士が、イタリアとヨーロッパの科学技術政策を紹介。OECDデータ等をもとに、イタリアでは科学技術への投資額の割合が多くないにも関わらず成果が大きいことを紹介。これには巨大加速器施設を運用する欧州原子核研究機構(CREN)の正式メンバー国としてイタリアが参加するなど、国際共同研究の環境が寄与していると説明しました。また、CERNの理事長(Director General)に2016年よりイタリア人物理学者のF.ギアノッティ氏が就くなど、科学技術政策でのイタリアの存在感が増加している点についても強調しました。さらに、日本とイタリアの国際共同研究プロジェクト、EUの科学技術フレームワーク「HORIZON2020」なども紹介し、多国間の共同研究を推進している状況を詳しく解説。日本語も堪能なメンゴーニ氏ですが、今回は英語でのレクチャーをお願いしたため、科学技術だけでなく政治経済に関する英単語を知るチャンスにもなったようです。
これらのセミナーを通じて、日本のみならず諸外国の科学技術政策を理解し、政策の成果を活かした科学技術基盤事業がさまざまに展開されている事実を体感する取り組みを進めています。政策によって推進される技術の現場を見学し、科学を推進する政策を学ぶ経験は、プログラム生にとって大きな力になっていくことでしょう。
報告:藤吉隆雄(リーディングプログラム特任准教授)