北海道大学 物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム1期生(平成26年度)に採用されている半田悟さん。現在博士後期課程2年に在籍し就職活動を行っている半田悟さんの3つのアピールポイントを紹介します。
1. 様々な統計力学モデルを数学的に厳密に解析。残された未解決問題へ挑戦し、共著論文を執筆。さらには他の数理モデルへの応用も!
私の研究は、様々な物質や現象に対する統計力学モデルを数学的に厳密に解析するというものです。例えば、強磁性体の模型としてイジング模型がよく知られています。強磁性体は常温では磁石に反応しますが、ある温度を超えると磁石に反応しなくなる常磁性へ変化するという相転移現象が起こり、イジング模型はこれを数学的に厳密に示すことができます。転移点では様々な物理量の特異的な振る舞いがみられ、それを特徴づける「臨界指数」という普遍量があります。それらによって統計力学模型は分類されると信じられています。私は、長く未解決だった臨界指数のひとつの上限を与えることに成功し、博士後期課程1年の秋に共著論文を執筆し、現在投稿中です。他にも、高分子鎖の統計力学モデルである自己回避歩行、森林火災や病気の蔓延などの統計力学モデルであるパーコレーションをこれまでに扱い、同様に臨界指数を特定するための研究を進めています。特に、臨界指数を決定する手法の一つに「レース展開」と呼ばれる手法を使っており、現在はそれを量子イジング模型などの量子系への応用にも着手し始めています。まだまだ未解決問題も多くあり、他の数理モデルへの応用の可能性も高い分野の研究を進めています。
写真:(左)Markus Heydenreich 教授と議論を重ねた黒板、(右)ミュンヘンのLMUで研究発表する様子
2. リーディングプログラムの支援を多いに活用して国際的な実践力を高め、多くの海外の研究者との幅広いネットワークを形成。さらには共同研究まで検討中!
博士前期課程1年のとき、語学研修でニュージーランドに行き、1ヶ月間ホームステイをしながら語学学校などで英語と様々な国の文化を学びました。また、自分の専門分野に近いオークランド大学の Jesse Goodman 教授に自分の研究を聞いてもらう機会もありました。博士前期課程2年のときには、海外サマーキャンプというイベントで、ソウル大学とのジョイントシンポジウムに参加しました。ただ参加するだけではなく、ソウル大学の博士の学生たちと協力してポスターセッションを運営しました。博士後期課程1年のときには、海外ネットワーク形成支援を利用し、ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学(LMU)とミュンヘン工科大学に合計2週間滞在しました。滞在中、LMUの Markus Heydenreich 教授と議論を重ね、上述した共著論文作成までに至りました。さらに博士後期課程2年の春、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の Gordon Slade 教授のもとで2ヶ月間、「繰り込み群」という新たなアプローチを勉強しました。このアプローチは、将来的にイジング模型に応用できるのではないかと期待しています。また同時期、UBCの1ヶ月間のサマースクールにも参加しました。サマースクールには世界各国の様々な同年代の研究者が参加していて、とても良い刺激になりました。特に、ブラジルのサンパウロ大学のPhD学生の Eric Ossami Endo くんとは研究分野が近く、意気投合して共同研究を検討しているところです。本プログラムの様々な支援をうまく活用して、海外の多くの優れた研究者と知り合うことができたことは大きな財産となっています。また将来、海外で研究者として働くことになっても臆することなくできる自信を持つことができました。
写真:(左)ソウル大学とのジョイントシンポジウムの様子、(右)海外インターンシップ先のSlade教授とPhDの学生のBenとの写真
図:これまでに築いた海外ネットワーク。アジア・ヨーロッパ・南北アメリカ・オセアニアと幅広い繋がりをつくることができました。
3. 様々な活動を通じて、数学の研究だけでは身につけることのできない、ユニット活動・社会の課題解決の能力を獲得。そして数学者の社会での役割を体感しました!
これまでに本プログラムの様々なイベントに積極的に参加してきました。特に以下の2つのユニット活動では、数学の研究をしているだけでは経験できない貴重な経験をすることができました。一つ目は、静岡科学館る・く・るで行われた夏のサイエンス屋台村に実験体験ブースを出展し、市民の方々に最先端の研究を伝えるアウトリーチ演習です。ユニット活動では様々な意見を出し合いながら、各自がそれぞれの仕事を分担して本番に臨みました。本番では、子どもたちの多くの驚きと笑顔を感じると同時に、最先端の研究のアウトリーチの難しさもあらためて学ぶことができました。
二つ目のユニット活動、企業コンソーシアムというイベントでは、半年間を通じて議論を重ねて社会の中に潜む問題を見つけ課題として設定し、それに対する独創的な解決策を研究者という立場から提案し発表しました。課題として設定することの難しさ、環境・コスト・需要・現実可能性などの全ての要素を考慮した解決策を提案することの難しさを体験しました。普段の専門研究のスタイルとは全く違うものであり、とても良い経験でした。本質的な筋道を論理的に重ねていき、ユニット活動としてどのように議論を収束させるか、共通点や差異を見出して重要度をつけてまとめていくといった重要な思考力を養うことができました。このような物事の考え方は数学の研究に非常に近く、数学者として企業や社会で働く際の役割を実感できたようにも思います。
写真:(左)アウトリーチ演習の様子、(右)企業コンソーシアムの発表会でプレゼンする半田さん
■論文
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※所属・学年等は2017年9月現在のものです。