2017
09.25

J. Am. Chem. Soc.に発表!
機械的刺激によるキラル結晶からアキラル結晶への相転移と発光性メカノクロミズム

研究研究紹介

J. Am. Chem. Soc.に発表!<BR>機械的刺激によるキラル結晶からアキラル結晶への相転移と発光性メカノクロミズム

 研究成果概要

北海道大学総合化学院有機元素化学研究室の陳旻究(リーディングプログラム1期生)は、機械的刺激によりキラル結晶からアキラル結晶へ相転移する新規な発光性メカノクロミズム1を見出し、その研究成果を Journal of the American Chemical Society に筆頭著者として発表しました。この研究は発光性メカノクロミック材料だけでなく、種々の刺激応答性を示す固体材料の新しい設計指針となると期待されます。

▮ 背景

機械的刺激により、固体の発光特性が変化する現象を発光性メカノクロミズムといいます。この現象を示す材料は、力を検知するセンサーやバイオイメージングなど高機能性材料への応用が期待されており、注目されています。発光性メカノクロミズムにおいて発光特性が変化するのは、その化合物を構成している分子の配列が変化することに大きく影響を受けています。しかし、固体材料の場合、その分子配列を制御することが非常に困難であり、さらに外部刺激により分子配列の変化が起こり得る材料の分子設計は未だ挑戦的な研究課題でありました。

▮ 研究成果

発光性メカノクロミック材料を含め、多くの刺激応答性固体材料の分子設計は、その分子配列が外部刺激によってどのように変化するかを予測するのが鍵となります。そこで、われわれは「分子設計」において柔軟な構造を持ちうる錯体に着目しました。錯体1は、ビフェニル部位を有しており、軸不斉(M-1およびP-1) が考えられます。よって、このような分子を結晶化すれば、キラル結晶2とアキラル結晶3両方得られるのではないかと考えました。
本研究では、ビフェニル基を有するアキラルな金(I)イソシアニド錯体1が、結晶化によってキラル空間群(P212121)を示す結晶(キラル結晶)を形成し、この結晶に機械的刺激を与えると、反転中心を持ち空間群がP-1である結晶 (アキラル結晶) へ相転移し、発光性メカノクロミズムを示すことを見出しました (図aとc)。有機結晶の分野では、Wallach’s rule が知られており、これは、ある分子がキラル結晶とアキラル結晶を形成する場合に、キラル結晶のほうが熱力学的に不安定な場合が多い、という経験則があります (図b)。Wallach’s rule に従う結晶系において、機械的刺激による結晶−結晶相転移が進行した点が今回の発光性メカノクロミズムの鍵となっています。


図. a) ビフェニル基を有する金(I)イソシアニド錯体1の分子構造とそのキラル構造 (M-1およびP-1)
   b) Wallach’s rule 、及び本研究における相転移の模式図
     c) 機械的刺激によるキラル結晶からアキラル結晶への相転移と発光変化の様子

▮ 社会的意義・今後の予定

本研究を通して、発光性メカノクロミズムだけではなく、結晶のキラリティー変化に基づく機能性固体材料の設計という適用範囲の広い分子設計の概念を提示できたとわれわれは考えています。今後は、上記の分子設計の概念をより一般化する目的で、今回用いた金(I)イソシアニド錯体1だけでなく、様々な有機分子を用いて結晶のキラリティー変化に基づく発光特性の制御を試みます。

▮ 論文情報

研究論文名:Mechano-Responsive Luminescence via Crystal-to-Crystal Phase Transitions between Chiral and Non-Chiral Space Groups
著者:Mingoo Jin, Tomohiro Seki, and Hajime Ito
公表雑誌:J. Am. Chem. Soc., 2017, 139 (22), pp 7452–7455(2017年5月23日web公開)
DOI番号:10.1021/jacs.7b04073

▮ 付記(科研費や助成金)
北海道大学ALPリーディングプログラム
日本学術振興会 特別研究員制度
新学術領域研究『配位アシンメトリー』(領域 代表: 塩谷光彦)における研究課題「不斉結晶のメカノクロミズム:汎用的刺激応答性材料の設計と新機能の開拓」

▮ 用語解説
1. 発光性メカノクロミズム:磨砕など機械的刺激により発光性固体材料の発光特性が変化する現象。
2. キラル結晶: キラルな空間郡に属する結晶。「その形状を鏡に映した結晶構造」と「元の結晶構造」を比へた際にその構造か異なるものかあり、反転中心を持たないことが特徴としてあげられる。
3. アキラル結晶:上記に示したキラル結晶ではない結晶郡を示す。

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