リーディングプログラムでは、科学者や技術者には社会と対話し研究の意義と魅力を伝える能力が必須であるとの考えにもとづき、科学技術コミュニケーションの科目群が設けられています。本プログラムでは、本学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター科学技術コミュニケーション教育研究部門(以下CoSTEP)との連携のもと「リーディングセルフプロモーション講義」を開講し、専門的研究内容を専門外の人にわかりやすく伝えるために必要な観点を学びます。プログラム生は、修士課程2年次の前期にCoSTEPのコースに参加し、科学技術と社会の関係性を考え、豊かな関係構築の考え方と実践手法の基礎を習得します。今回のレポートでは、平成28年6月18日に行われた早岡英介特任准教授による講義「実践入門」を紹介します。
CoSTEPでは「サイエンス・カフェ札幌」をはじめとする対話型イベントの企画・運営、北海道大学の魅力を学内外に発信するFacebookページ「いいね!Hokudai」での取材・執筆、サイエンスパークや札幌デザインウィークへの出展、さらに映像制作など数多くの実践を行っています。これらの実践は、科学技術コミュニケーションに長けた人材「科学技術コミュニケーター」を育成する上で欠かせない教育プログラムです。科学技術コミュニケーターは、科学技術の専門家と一般市民との間で双方向的なコミュニケーションを確立し、科学技術の社会的重要さや学ぶことの意義や楽しさを効果的に伝達する役割を担う人材で、これからの社会で重要です。平成28年6月18日に行われた「実践入門」の講義では、CoSTEPの10年以上におよぶ豊富な実践活動の事例を紹介しながら、企画のスタートからゴールである評価・振り返りまでに必要な要素を解説していきました。
ひとつの企画を成功させるには7つのステップがあります。
1.企画
2.スケジューリング
3.取材
4.構成
5.広報
6.本番
7.評価・振返り
どんな企画でも準備が重要であり、企画とスケジューリングを最初の段階で細かく作り込むことで、それ以降の流れを円滑にすることができます。企画に関しては、魅力的でシンプルなタイトルになっているか、イメージをかきたてる表現になっているか、明確にターゲットを絞り込んでいるかといった視点からより具体化させていきます。スケジューリングに関しては、ゴールオリエンテッド(逆算)の発想が大事です。目標を定めた上でスケジュールを組んで、そこに向かって最短距離一直線に目指すと計画的に進められます。このように準備をひとつひとつ積み上げていくことで、ようやく本番を迎えられるのです。
写真:「実践入門」では他に種村剛特任助教(左)、村井貴特任助教(中央)、朴炫貞特任助教(右)がそれぞれの実践経験を解説。
上記の7つのステップに加え、企画の実践には、以下の3点も重要です。
1. 企画実践者のモチベーション
2. ヒト・モノ・カネ・情報の管理
3. 企画内容のディレクション
企画をうまく進めるには計画を作り込むことが大切になります。そのためにはこれら3点に注意しておくと円滑に企画を進めることができます。また、たとえ企画の実践に小さなミスがあったとしても、それが前向きな失敗であれば、次に活かすことができます。CoSTEPでの実践は仲間と共に行うものなので、助け合う姿勢をお互いに持つことで、失敗の機会を減らせます。
CoSTEPの実践的教育プログラムは、背伸びせず、できることからコツコツと積み上げ、徐々にスキルアップしていくことで、やがて大きなチカラを身につけることができるように設計されています。気合いが入りすぎた状態では、空回りしてしまい、その結果、最初に持っていた情熱が急激に冷めてしまうことがあります。そうならないように、肩のチカラを抜き、時には深呼吸しながら学ぶことが大切です。
実践では多くの人たちと連携することが求められます。その際、考えなくてはいけないのは、「やりたいこと」と「できること」、それに「やらなければならないこと」のバランスです。いろいろな能力を持った仲間が集まると、あれもこれもと盛り込みたくなり、その結果、企画が破綻してしまうことがあります。それを防ぐためには、仲間の能力やキャパシティをよく観察し、残された時間を考慮することが大切です。思いついたことを全て実行することはできないので、プライオリティーをつけながらも、目の前の課題に全力で取り組むことが大事なのです。
リーディングプログラム生は、博士後期課程1年次に研究アウトリーチ活動を実践します。リーディングセルフプロモーション講義で獲得した手法を、具体的プランを立案する際に役立ててください。
報告:村井 貴(リーディングプログラム 科学技術コミュニケーション教育担当教員 )