▮ 研究成果概要
北海道大学生命科学院薬品製造化学研究室の佐竹瞬(リーディングプログラム2期生)は、ロジウム触媒*1と有機分子触媒*2を組み合わせたハイブリッド触媒を応用する、環境負荷の少ない化学変換法を開発し、その成果をNature Catalysisに筆頭著者として発表しました。この研究は、医薬品などに多い複雑な低分子化合物の、より効率的な製造につながることが期待できます。
▮ 研究背景
現代の化学合成の技術は進展しており、単純な構造の原料から、多くの有用な低分子化合物を得ることが報告されています。しかしながら、医薬品などの複雑な低分子化合物は複数の不斉中心*3を含んでいるものが多く、それらを制御しながら合成する工程では、多くの副生成物が廃棄物として生じてしまうことがしばしばあります。そのため、複数工程をかけて目的の複雑な低分子化合物を得る反応では、大量の廃棄物が生じるという課題がありました。持続可能な社会の実現に向け、廃棄物を軽減した多様な合成手法の開発が求められています。
▮ 研究成果
リーディングプログラムの佐竹瞬、栗原拓丸をはじめとする松永グループのメンバーらは、名古屋大学の石原グループとの共同研究で、市販の簡素なロジウム触媒と、自由に設計できる有機分子触媒を組み合わせるハイブリッド化技術を開発しました。
ロジウム触媒は原料の目的の部位のみを活性化し、廃棄物を少なく新たな分子の結合を形成する点に優れているものの、不斉中心が生じる場合には制御が困難なものでした。制御を実現する高機能なロジウム触媒がすでに開発されていますが、触媒の製造には多工程の複雑な処理が必要であり、より簡便な手法が望まれていました(図1)。
今回開発した技術は静電相互作用を*4利用することで、ロジウム触媒に不斉点の制御をもたらす有機分触媒を簡便に導入するものです。具体的には、プラスに帯電するロジウム触媒と、マイナスに帯電する有機分子触媒であるキラルジスルネートを組み合わせ、ハイブリッド触媒とする技術です。簡素で入手容易な2つの触媒を原料として、1工程の処理をするだけで、廃棄物の少ない省資源かつ高度な不斉点の制御をも実現する、高機能な触媒を生み出すことに成功しました(図2)。
開発したハイブリッド触媒の応用例として、核酸塩基誘導体を化学変換しています。核酸塩基に対して、少ない廃棄物で精密に制御した持続可能な化学変換を行うことに成功しました。核酸塩基誘導体は次世代医薬品として注目されている核酸医薬品の核となる構造を持つことから、医薬品などに多い複雑な低分子化合物のより効率的な製造につながることが期待できます。
▮ 論文情報
研究論文名:Pentamethylcyclopentadienyl rhodium(III)–chiral disulfonate hybrid catalysis for enantioselective C–H bond functionalization
著者:佐竹瞬、栗原拓丸、西川圭佑、望月拓哉、波多野学、石原一彰、吉野達彦、松永茂樹
公表雑誌: Nature Catalysis 2018, 1, 585–591.
*1)ロジウム触媒
レアメタルの一種であるロジウムを含む触媒。ロジウム触媒を用いる多様な化学変換が明らかになったおり、現在でも研究が進んでいる。
*2)有機分子触媒
金属元素を含まず、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、などの元素からのみ構成される触媒。化学合成によって得られるため、設計しやすい特徴を持つ。
*3)不斉中心
分子にキラリティー(鏡合わせの関係)を生じさせる元となる原子。今回は異なる4つの構造と結合する炭素原子が生じるため、左手と右手のように鏡合わせの関係に当たる2種の化合物を与える。それらの制御が重要となる。
*4)静電相互作用
プラス電荷とマイナス電荷による結合形成。金属触媒で一般的な共有結合と比較して柔軟な結合として知られている。