2017
05.29

産業界で活躍する博士を目指して企業インターンシップに取り組みました

企業インターンシップ

産業界で活躍する博士を目指して企業インターンシップに取り組みました

平成28年度、3名のプログラム生が「企業インターンシップ」を行いました。今回の活動報告では、2名のプログラム生が取り組んだ企業インターンシップを紹介します。

企業と大学における研究開発の違いを実感した企業インターンシップ
報告:リーディングプログラム1期生 角田 圭

▮ 受入先:日東電工株式会社 茨木事業所 inovas
▮ 所在地:大阪府茨木市下穂積1丁目1番2号
▮ 期 間:平成28年8月22日– 9月30日
▮ テーマ:防雪・防氷材に関する研究:設計指針の提案
▮ 研修内容と成果:
着雪・着氷は、自動車・鉄道・航空機に加え、様々なインフラ設備に影響を及ぼします。除雪・除氷作業は、主に熱での融解や人の手により行われており、エネルギーや社会コストの低減が求められています。私は、基材に異なる添加剤を加えた様々な防雪・防氷材料表面における水滴の凍結観察や着氷力測定を行うことで材料-氷界面で生じている現象を考察し、表面形状や添加剤の選定基準などの設計指針を提案しました。
▮ 研修を終えて:
一般的な学士・修士のインターン生とは違って博士課程の学生であることや、6週間という比較的長期の研修期間ということもあり、配属先のチームが設定した実験を行うのではなく、実験計画・実験内容・実験系の設計全てを自分で考えることが求められました。さらに、ほとんどの場合において実験結果が予想とは異なっていたため、現象を説明・検証するための実験を新たに考える必要がありました。インターン生の私が実験に使える時間は1週間に32時間。即座に仮説を考え、効率良く実験を行い、結果を出すことも求められていました。
前半3週間は建物の構造・資材の置き場など慣れない現場でご迷惑をお掛けすることも多々あり、受入側の負担ばかり大きくなってしまうのではないかと不安もありました。しかし、最後の成果報告会でテーマリーダーから「実際に材料表面で起こっている現象の詳細な観察を行ってもらい、その結果、我々としても非常に興味深く、今後の材料設計における重要な知見が得られた。観察手法も確立して頂き、テーマ開始直後にインターンに来て頂いて非常に助かった。」という言葉を頂いたことから、有意義な研修であったと感じています。
▮ 企業と大学における研究開発の違い:
今回の企業インターンシップを通じて、企業と大学における研究開発の違いを実感しました。企業の出す新製品は常にニーズに応えてきており、開発した商品にはユーザーが存在しています。もちろん大学における研究テーマにおいても、研究の意義や目的はありますが、特に理学系では「知の創造」が主な目的であるため、実際に開発した技術やモノを利用するユーザーのことまで考慮している場合は少ないのが現状です。一方企業は、価値を創造しその対価としてお金を頂きます。得られた利益を設備投資・研究開発・地域貢献などに充て、その活動サイクルを回して持続的な発展を遂げる必要があります。採算が取れないと判断された場合、研究テーマを続けることが出来なくなります。特に日東電工㈱では、判断が素早く数多くのテーマが生まれ消えていくそうです。そのようなテーマの移り変わりの早い企業での研究開発の現場においては、専門に囚われない幅広い視野と科学的な基礎力が重要であるということを、身をもって経験しました。私の担当したテーマにおいても、メンバーの専門分野は全員違っていました。週に1回の報告会においても、様々な角度からの質問やアイディアの提案が行われ、「なるほど、そういう見方もあるのか」というような幅広い視点に触れることが出来ました。
後輩たちにはぜひとも、本プログラムの課題解決型教育「企業コンソーシアム」前に企業インターンシップを実施し、企業の研究開発の現場で荒波に揉まれることを期待します。


写真左:着氷力測定の様子。
写真右:水滴の凍結観察の様子。

産業界で活躍する博士に必要なことを学んだ 1ヶ月間
報告:リーディングプログラムパイロット生 飯田 良

▮ 受入先:JNC株式会社
▮ 所在地:滋賀県守山市川田町230番地
▮ 期 間:平成28年8月29日– 10月6日(ただし9月17– 25日は除く)
▮ テーマ:ナノ繊維の評価
▮ 研修内容と成果:
エアフィルターの中でも高性能なものはHigh Efficiency Particulate Air Filter(以下HEPAフィルター)と呼ばれています。既存のHEPAフィルターはごみを補修した後のリサイクルが困難でした。インターンシップの期間中、私はJNC株式会社が開発を進めている再生可能なナノ繊維HEPAフィルターの再生性の検討および性能の向上に取り組みました。具体的な業務内容としては、ナノ繊維HEPAフィルターのフィルター性能の評価を行いました。実験の結果、現状のHEPAフィルターの再生性には改善の余地があるということが分かりました。そこで、走査型電子顕微鏡(SEM)でナノ繊維フィルターを観察し、再生性の悪さについての原因究明を行いました。SEMの結果から再生性向上のための提案を行い、ナノ繊維HEPAフィルターに改善を施してフィルター性能を再度評価しました。最終的な結果としては十分な性能を持つフィルターの作製までは至りませんでしたが、より再生性を高めるための指針を示す結果を得ることができました。
▮ 研修を終えて:
産業界で活躍する博士になるためには、企業と大学の違いを認識し、そのギャップを埋める必要があります。JNC株式会社で実施されたインターンシップを通して、企業と大学の違いを体感できました。特に「顧客」の存在が研究開発に大きな影響を及ぼしている、ということを肌で感じました。お客様がどのような性能・コストのものを求めているのか、という顧客目線での議論が常に展開されていました。インターンシップに参加する前にも言葉では聞いていましたが、その違いは想像以上でした。企業での研究開発の進め方を実感できたことは大きな収穫です。
企業と大学の違いを感じた一方、博士課程で学んできたことを活かせる場面もありました。研修テーマは現在の専門とは異なる「繊維」でしたし、顧客の存在を常に意識した研究開発に初めは戸惑いを感じていました。しかし、研修が進んでいくにつれて、博士課程で培った論理的な考え方や研究を遂行する力はそのまま活用することができると感じました。異分野のテーマでも企業の研究開発でも、博士課程で身につけた能力を活かせるとわかったことは大きな自信につながりました。
また、配属された部署以外の方とも交流する機会が多くありました。設備技術部門などの研究開発部門以外の方ともお話しし、その苦労や仕事の面白さを聞くことができました。様々な働き方を知ることができ、就職活動の参考になりました。
このたびのインターンシップでの研修を通して、企業と大学での研究のギャップを知ることができました。研修テーマは専門とは離れた分野でしたので、異分野の知識を学ぶこともできました。今回得た貴重な経験や知識を今後の研究や就職活動で生かしていきたいと思います。


写真左:実験中の飯田さん。
写真右:最終成果報告会での発表する様子。

報告:角田 圭(リーディングプログラム1期生)
   飯田 良(リーディングプログラムパイロット生)
構成:リーディングプログラム事務局工学分室

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