リーディングプログラムを修了するためには、2回のQualifying Examination(QE)と呼ばれる試験に合格する必要があります(注)。1回目は修士課程2年次に行われる「QE1」で、2回目は博士課程2年次に行われる「QE2」です。QEは、5年一貫の博士課程教育において、教育の質を最大限に保証することを目的として行われています。
リーディングプログラムの学生募集説明会などでは、QEの具体的な内容を教えてほしいという質問が出されます。そこでこの活動報告では、先日プログラム1期生が挑んだQE1の様子をレポートします。
[QE1のねらい]
QE1は「異分野ラボビジット」や「フロンティア数理物質科学 Ⅰ,Ⅱ」などの、当プログラムの独自カリキュラムで学んだ成果を発揮する場です。QE1の課題に取り組むことにより、研究調査能力の飛躍的な向上と研究提案能力の開発がなされることを期待しています。審査はおもに、異分野横断型の高度な俯瞰力と数理的な課題解決能力を身につけることができたかどうかという観点から行われます。
[QE1の課題]
課題は以下の2つから選択し、現状分析と研究提案を行います。また、その内容についての口頭試問も行います。
〈課題1〉
自身の専門分野以外での最新の研究トピックスを選び、総説としてまとめる。その上で、自身の研究内容と関連した異分野横断的な研究提案を行う。
〈課題2〉
物質科学における研究課題を、数理連携により解決することを目指す研究提案を行う。
写真:提出された冊子体。
[口頭試問]
口頭試問は1人50分間(発表20分、質疑応答30分)の時間をかけて入念な審査が行われます。発表では、現在までの各自の修士研究の中間報告を冒頭で行い(5分程度)、その後QE1の課題の発表を15分間行います。口頭試問では、本プログラムの担当教員に加え、協力企業の研究者の方々も審査員として参加しました。ある大手企業研究所の審査員は「とても興味深い発表が多くて驚いた。短期間で専門外の分野の研究動向を正確に調査していることが伝わってきた。」と感想を述べました。また「企業の研究所の研究者には幅広い分野での意欲が求められるのはもちろんですが、数理的解析能力も必須。」ともいいます。その意味で、異分野横断と数理連携をテーマにしたQE1は特に「注目すべき試み」であると映ったようです。
写真:5月の説明会の様子。昨年QE1に合格したプログラム生(パイロット生)が、1期生のために模擬プレゼンテーションを行いました。
[試験後のフォローアップ]
リーディングプログラムは、QE1を単なる中間試験としてのみ位置づけている訳ではありません。QE1を通して、学生が主体的に調査、研究をする能力を身につけ、その経験が将来新たなフィールドを開拓するための基盤となることを期待しています。QE1の効果を最大化させるために、本プログラムは1人の学生に対して複数のアドバイザーを配置します。学生はアドバイザーから試験後に様々なアドバイスを受けることができ、そのアドバイスを反映させた「改訂版」書類を提出することが可能です。この作業は10月後半を目処に完了します。このような手厚いケアにより、独りよがりではない正確な知識や考え方を身につけるとともに、本格的な論文作成能力とプレゼンテーション力を磨きます。
[QE1に至るまでの道のり]
プログラム生は、修士課程1年次の夏に選抜試験に合格後、各学院の主副指導教員とリーディングプログラムの教員の助言を受けながら、博士課程一貫の教育研究カリキュラムを履修します。もちろん各学院の所属研究室での研究活動は従来通り行います。本プログラムが提供する「異分野ラボビジット」と「フロンティア数理物質科学 Ⅰ,Ⅱ」は、QE1の課題と特に密接に関連したカリキュラムです。
入学早々に行われる「異分野ラボビジット」では、標準で1ヶ月間、ラボを完全に移籍することにより異分野横断的な俯瞰力を養います。ここで言う異分野とは、例えば無機化学の研究室所属の学生ならば、有機化学や生物学、数学などの分野のことを指します。この場合、有機化学や生物学(数学以外)の研究室にラボビジットした学生は、基本的にそこで学んだテーマでQE1の課題1を選択します。一方、数学の研究室にラボビジットした学生は課題2を選択することになります。
修士課程1年次後期と修士2年次前期に行われる「フロンティア数理物質科学 Ⅰ,Ⅱ」は、物質科学系の学生が実践的な数学力を身につけることができるよう工夫されたカリキュラムです。実際、今回のQE1で課題2を選んだ学生は、この講義で身につけた知識を遺憾なく発揮し、物質科学の様々な課題を数理的な視点から議論しました。
写真:(上)異分野ラボビジットで異分野の実験に挑戦するプログラム生。先端生命科学研究院細胞機能科学研究室にて。(下)フロンティア数理物質科学 Iの講義風景。
[QE1の総評]
QE委員長の坂口和靖教授は「ハイレベルかつ興味深い提案が多かった。単に評価の点数に一喜一憂するのではなく、審査員からのコメントを参考にしてより良い分析・提案・プレゼンテーションができるよう、これからも精進してほしい」と話しました。課題1を選択した学生の一人は、「QE1は大変だったが、異分野の論文を読むのに抵抗がなくなったことが大きな収穫」と振り返ります。今後、博士課程2年次後期にはQE2が行われますが、QE2ではより具体的な研究提案書を作成するという課題が予定されています。1期生のみなさん、それまでに企画立案能力をさらに鍛え、より良いプレゼンテーションを行えるようしっかりと心構えをしておいてください!
写真:QE1結果報告会。ここで評価結果が発表されました。審査員からのコメントも同時に手渡されました。
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資料:平成27年度のQE1のスケジュール
5月7日 説明会
6月16日 課題タイトルおよび概要の審査
8月26日 書類提出締め切り
8月31日〜9月1日 口頭試問
9月24日 結果報告会
〜10月下旬 複数のアドバイザーによるフォローアップ
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注)QEに加え、各学院が行う修士論文の審査、各学院とリーディングプログラムが共同で行う博士論文の審査にも合格する必要があります。全てに合格すると、学位記には各学院における博士の学位とともに、「リーディングプログラム修了」の文字が併記されます。
報告:北原圭(リーディングプログラム特任助教)