2017
06.26

カリフォルニア大学バークレー校での海外インターンシップを終えて

研究海外インターンシップ

カリフォルニア大学バークレー校での海外インターンシップを終えて

グローバルに活躍するリーダーへ導くことを目的に、本プログラムでは海外の大学等研究機関へのインターンシップを経済的に支援しています。平成28年度は、4名のプログラム生が「海外インターンシップ」を実施。今回の活動報告では、カリフォルニア大学バークレー校でのインターンシップを行った岡田拓さんのレポートをピックアップしてご紹介します。

●主体性を学んだカリフォルニア大学バークレー校 Katz グループでの海外インターンシップ●
報告:リーディングプログラム1期生 岡田 拓

▮ 研 修 先|University of California Berkeley, Department of Chemical and
        Biomolecular Engineering, Alexander Katz lab group (Professor)

▮ 研修期間|平成28年10月1日~平成29年3月31日

▮ 研修テーマ|カリックスアレーンを用いた固体触媒の開発と有機化学反応への応用

平成28年1月7日に開催されたALP共催イベント Hokkaido University – University of California, Berkeley Joint Symposium on Chemical Sciences and Engineering での交流がきっかけとなり、平成28年10月1日から6カ月間、カリフォルニア大学バークレー校で海外インターンシップを行いました。受入れ研究室であるAlexander Katz 教授のグループでは、ゼオライト(多孔性の鉱物)やカリックスアレーン(複数の芳香環が円環状に結合した有機分子)を利用した触媒反応を中心に研究しています。Katz グループの研究分野(触媒化学)は、厳密には私の研究分野(有機化学)と異なるため、研究分野の違いや環境の違いを乗り越えて自分の力を発揮できるかが今回のインターンシップにおける課題でした。

 Katz グループでの研究経験~主体性を学ぶ~

Katz グループは8名ほどの比較的小さなグループだが、触媒化学・無機化学・有機化学など様々なバックグラウンドを有する学生が多く、まさにinternational(国際的)かつinterdisciplinary(分野横断的)な研究室でした。このKatz グループで半年間研究することで、自分が身に着けたのは主体性です。すなわち、自分の強い意志をもって研究に臨む心構えが出来上がったと感じています。また、論文に繋がる研究成果を残すこともできました(現在、first authorで論文執筆中)。

インターンシップ期間中の目標

自分の意識に変化を起こした一番の理由は、「インターンシップ中に1報は論文を出す」という目標を掲げて努力したこと。私はAmbitious Leader’s Program(以下、ALP)に在籍して3年目になり、これまでプログラムの様々な活動に従事して社会性や国際性を身に着けてきました。特に国際性に関しては、ALPに採用される前はほとんど英語を話せなかったことに鑑みれば、こうしてインターンシップを果たし、海外の研究者と意思疎通を図っていることは成長の証であると思います。一方、ALPに所属することで研究にかけられる時間は減少します。それでもALPでの活動に意味があると思うので活動を続けていますが、自分は研究者として本当にやっていけるだけの技量があるのか不安に思う部分もありました。そこで海外インターンシップでは、限られた期間内で結果を出し、大学院卒業後も研究者としてやっていけるのかを自分自身に納得させたいという思いもあり、「論文を1報出す」という目標を掲げることにしました。この目標は是が非でも乗り越えなければならない壁であり、研究のモチベーションを持続させるには十分な理由でした。

研究の全体像を把握する

「インターンシップ期間中に論文を1報出す」という目標を達成するためにまず考えたことは、一流の研究者であるKatz グループの研究スタイルを吸収することでした。Katz グループでは、研究の目標設定が非常に明確でした。研究開始から目標到達まで「どのような社会的問題を解決するために何を明らかにする研究なのか」「目標達成のためにどのような実験が必要なのか」という、明確なストーリーを練ってからプロジェクトがスタートします。一見普通のことかもしれませんが、研究の全体像をはっきりさせることで、効率的に実験を行い目標にアプローチできます。「何のためにその研究を行っているのか?」という問いに即座に答えられる学生はそう多くはいないと思います。

ディスカッション

Katz グループのもう一つの特徴は、頻繁なディスカッションです。教授とは週一回のペースで個人ディスカッションが設けられます。自分の考えを存分に主張できる機会なので、自分にとっては毎回が勝負の場でした。大体は採用されずに終わってしまうのですが、教授との議論に臨むために実験結果を解析したり、考察したり、次の手を必死に考えたりしたことは、実験に対して積極的に向き合うよいきっかけになりました。また、ディスカッションを通して教授の思考を学ぶことができたことも非常にプラスでした。

アドバイザーの方の言葉

私の研究は、同じ有機化学専門のAndrew Solovyov 博士(Special Researcher)と二人三脚で進めており、ここでも非常に頻繁にディスカッションを行い、研究のストラテジーについて相談しました。研究内容には直接関係しない話ですが、Andrew 博士は私が研究に行き詰っているときは「大丈夫、すべて順調に進んでいるよ」といつも言葉をかけてくれました。研究とは、究極的には個人の領域に帰するものかもしれませんが、実験のパートナーがこのように声をかけてくれる人だったからこそ、自分も集中して半年間の実験に取り組めたのだと思います。

Katz グループでの研究経験

まとめると、Katz グループでの研究経験は、本気で研究を行うための心構えを教えてくれたと思っています。研究目標をしっかりと意識することも、頻繁なディスカッションも、決して特別なことではなく研究の基本ともいえる部分で、全て「主体的」に実験を進めることに通じます。日本の研究室と海外の研究室は全く環境が異なりますが、重要なのはどのような心構えで実験するかだと思います。Katz グループでの経験を無駄にしない為にも、学んだことをこれからの研究に反映させていきたいと思っています。


写真:一緒に実験を進めたAndrew Solovyov 博士(左)と岡田さん(右)

 自分の将来を考える

最後にもう一点記しておきたいのは、Katz 教授もAndrew 博士も、私の将来のために、ぜひKatz グループで論文を出してインターンシップを終えてほしいと言っていただいたことです。これまで私自身、自分の将来について真剣に考えたことは実はあまりありませんでした。しかし教授方の言葉は、いまこそ将来について真剣に考えるべき時だと言っているように聞こえました。幸い、海外での研究生活はオンとオフがハッキリしていて自分自身の時間も十分に取れたので、将来の進路について悩む時間も十分にとることができました。自分は将来何がしたいのか、その答えをくれたのは海外での研究生活でした。科学研究は結果重視のシビアな世界ですが、これまで述べてきたように、自分が本気で打ち込むことができた世界です。大学院博士後期課程に在籍している以上、研究職に就くのは当たり前なのでしょうが、海外インターンシップをきっかけに、改めて研究のプロとして進む覚悟を持たせてもらったと感じています。

253th ACS National Meeting & Exposition

海外インターンシップの集大成として、平成28年4月2日から4月6日にサンフランシスコで開催された 253th ACS National Meeting & Eposition において、口頭発表を行いました(ただし、日本での研究内容)。参加のきっかけは、Katz グループの先輩から「せっかくなので、インターンシップの終わりに参加してみたらいいのではないか」と勧められたことでした。この時、インターンシップを通して自分は変わりたいという思いから、口頭発表を決意しました。学会発表には教授が全面的に協力してくださり、スライドの見直しと練習に何度も付き合ってくださいました。Katz 教授流の発表技術を直接学べたことも、学会発表をして良かった点です。当日は、Katz 教授もAndrew 博士も見に来てくださり、半年間のインターンシップで培った英語力、プレゼン能力、そして度胸を試す場として非常に貴重な経験となりました。海外の学会で口頭発表を行ったという事実は、自分が積極性を発揮した証明であり、今後の自信に繋がってくれると信じています。

 おわりに

私の半年間にわたる海外インターンシップは、成功したと思います。なぜなら、半年間で論文につながる研究成果を残すことができたからです。また「主体性」というキーワードの下、研究と自分の将来に対して本気で打ち込めるように自分の考え方がよい方向に変化したと思っています。この6カ月は間違いなく自分の人生においてsignificant eventであり、本当に貴重な経験でした。自分自身、インターンシップ経験が今後の自分をどのように変えていくのか、非常に楽しみです。
最後に、半年間に渡り私を受け入れてくださったカリフォルニア大学バークレー校の Alexander Katz 教授、アドバイザーとして一緒に実験を進めてくださった Andrew Solovyov 博士、そして時にはよき同僚としてアドバイスをくれ、時にはよき友人としてインターンシップの楽しい思い出をくれた Katz グループのメンバーに深く感謝します。


Thanksgiving DayにKatz 教授のhome partyに招待していただいた時の集合写真
(Katz 教授のご家族とラボメンバー。Katz 教授は、右から3番目)。

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平成28年度海外インターンシップ実施報告

・陳 旻究(リーディングプログラム1期生)
 期間:28.9.18 ー 28.12.18
 滞在地:アメリカ/カリフォルニア州ロスアンジェルス
 インターンシップ先:Professor Miguel A. Garcia-Garibay,University of California Los Angeles
・和田 智志(リーディングプログラム1期生)
 期間:28.9.5 ー 28.11.28
 滞在地:オーストラリア/パース
 インターンシップ先:Professor Massimiliano Massi, Curtin University
・小松 雄士(リーディングプログラム3期生)
 期間:29.1.10 ー 29.2.14 
 滞在地:台湾/台北
 インターンシップ先:Professor Shih-Kang Fan, National Taiwan University
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報告:岡田 拓(リーディングプログラム1期生)
構成:リーディングプログラム事務局工学分室

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