2018
09.25

プラスバシンA3の合成をJournal of Organic Chemistry に発表!

研究研究紹介

プラスバシンA3の合成をJournal of Organic Chemistry に発表!

▮ 研究成果概要

北海道大学生命科学院創薬科学研究教育センター有機合成医薬学部門の勝山彬(リーディングプログラム1期生)は、抗菌活性を示すペプチド系天然物の一つであるプラスバシンA3と呼ぼれる化合物とその誘導体の化学合成を行い、その研究成果をThe Journal of Organic Chemistryに筆頭著者として発表しました。この研究は、薬剤耐性菌による感染症の新たな治療薬開発につながるものとして期待できます。

背景

現在、薬剤耐性菌の出現と、これによる感染症の蔓延が世界規模の問題となっています。したがって、こうした感染症の治療が可能な新規抗菌薬の開発がもとめられています。細菌から発見されたプラスバシンA3というペプチド系の化合物は薬剤耐性菌に対しても強力な抗菌活性を示すことから、新規抗菌薬開発の候補として有望であるとみなされていました。ペプチドとはアミノ酸が連なった化合物を指しますが、アミノ酸は自然界に豊富に含まれる「天然アミノ酸」と自然界にはほとんど存在しない「非天然アミノ酸」の二つに大きく分類され、非天然アミノ酸の化学合成には数多くの化学変換と膨大なコストを要します。プラスバシンA3にはこの非天然アミノ酸が5つ含まれ、これにより、化合物の化学的供給が難しいことが問題となっていました。

研究成果

今回勝山をはじめとする市川聡教授の研究チームは、非天然アミノ酸の一つである3-ヒドロキシプロリンというアミノ酸を、Joullié–Ugi三成分反応と呼ばれれる多成分反応を用いて構築することで、プラスバシンA3効率的な化学合成経路を確立しました。五員環イミンのa位に嵩高い置換基であるトリイソプロピルシリル基を導入し、このイミンを用いたJoullié–Ugi三成分反応を二度用いることで、プラスバシンA3に含まれる2つの3-ヒドロキシプロリンを構築しました。こうして合成したフラグメントを連結し、合成の終盤で大員環構造を構築することでプラスバシンA3の化学合成を達成しました。またプラスバシンA3に含まれる他の非天然アミノ酸であるヒドロキシアスパラギン酸を、天然アミノ酸であるアスパラギン酸に変換した類縁化合物の合成も、同様の合成経路を利用することで達成しました。

社会的意義・今後の予定

本研究により、プラスバシンA3の類縁化合物の効率的な合成が可能となりました。今後、この手法を利用してプラスバシンA3の類縁化合物を網羅的に合成し、元の化合物を上回る性質を有する化合物を見出すことで、本化合物を元にした新規抗菌薬の開発が期待されます。

 論文情報

研究論文名:Total synthesis of plusbacin A3 and its dideoxy derivative using a solvent-dependent diastereodivergent Joullié–Ugi three-component reaction.

著者:勝山彬、薬師寺文華、市川聡

公表雑誌:J. Org. Chem. 2018, 83, 7085-7101.

DOI番号:10.1021/acs.joc.8b00038

 

用語解説

1)薬剤耐性菌:既存の薬剤が効かなくなった細菌のことを意味します。

2)抗菌活性:ある化合物が細菌を殺す作用を示すことを意味します。

3)多成分反応:三種類以上の化合物を混合し、新たな一つの化合物へ変換する化学的な手法を意味します。

 

反応経路図

 

 

PAGE TOP