2018
11.20

ゲル内部を反応場とした無機結晶の異方的な鉱化に成功

研究研究紹介

ゲル内部を反応場とした無機結晶の異方的な鉱化に成功
 

研究成果概要

北海道大学生命科学院 ソフト&ウェットマター研究室の深尾一城(リーディングプログラム2期生)は、延伸したダブルネットワーク(DN)ゲル1を反応場として、ハイドロキシアパタイト(HAp)2の異方的3な結晶成長の誘起に成功し、研究成果をACS Nano (American Chemical Society) に筆頭著者として発表しました。この研究は、骨置換などの用途に向けた異方的な機械特性を示すソフトセラミックス4への応用が期待されます。

研究背景

ハイドロゲルのもつソフトでウェットな性質は、生体組織と多くの類似点を有するため、生体代替材料としての応用が期待されています。特に近年、龔(グン)教授らのグループは生体軟骨に匹敵する強度を示すダブルネットワークゲルを開発し、十分な耐荷重性を有する生体材料としての応用が実現可能なレベルに達しています。一方で、生体組織の多くは微視的(nmオーダー)から巨視的なスケールまで階層的な異方性構造を有しており、その異方性に由来する機能を発現しています。より天然に近い生体代替材料創製のためには、高強度ゲルに異方性構造を導入することが重要となります。

研究成果

リーディングプログラムの深尾一城をはじめとする龔グループのメンバーらは、「マクロな延伸によってダブルネットワークゲルのナノスケールの網目の配向度を制御することで、ゲル内で成長する無機結晶の配向を制御する」手法を開発しました。本手法は簡便であり、無機結晶を鉱化させる際のゲルの延伸度を変えるだけで、無機結晶の配向度をコントロールすることができます。

図1 ダブルネットワークゲルの構造と各網目成分

図1のようにダブルネットワークゲルはアニオン性の第一網目及び中性の第二網目の二種類の高分子網目構造を有しており、第一網目に存在するアニオン性官能基を起点としてハイドロアパタイト(HAp)が結晶成長するため、得られたダブルネットワークゲルを巨視的なスケールで延伸することによってナノスケールの第一網目の異方性を付与しました。この延伸したダブルネットワークゲルを反応場として、カルシウムイオンとリン酸イオンを含むそれぞれの水溶液に交互に浸漬することで、ゲル内部に双方のイオンが拡散しハイドロキシアパタイトを結晶化させました(図2)。

図2 ハイドロキシアパタイトの複合化前と複合化後の画像及び透過型電子顕微鏡によるハイドロキシアパタイトの観察

延伸を維持した状態でハイドロキシアパタイト複合ダブルネットワークゲルの広角X線回折測定5を行ったところ、ゲルの延伸方向に沿ったハイドロキシアパタイトの配向が確認されました(図3-a)。この結果は、高分子網目のような柔らかい成分の空間分布が無機結晶の異方的な成長を誘起した初めての例です。また、ゲル内で鉱化したハイドロキシアパタイトの配向性はダブルネットワークゲルの延伸度によってコントロールすることができ、天然の骨組織と同程度の配向性を達成しました(図3-b)。加えて、複合化したハイドロキシアパタイトのサイズは高分子網目のサイズよりも非常に大きく、ハイドロキシアパタイトは高分子網目を取り込みながら成長するため、ダブルネットワークゲルの延伸状態を緩和させてもハイドロキシアパタイトの配向構造は安定であることも確認されています。

図3 (a) 広角X線回折によるハイドロキシアパタイトの配向性の観察及び(b) ダブルネットワークゲルの延伸度による配向度

本手法は、巨視的なゲルの延伸によって微視的な無機結晶の配向性をコントロールすることが可能な画期的な手法であり、この微視的な無機結晶の異方性によって複合ゲルの巨視的な力学物性の異方性も確認されています。今後、本研究成果が「生体組織のもつ異方的構造の模倣・理解」という学術的に重要なテーマに対する一助となることが期待されます。

 

論文情報

研究論文名:Anisotropic Growth of Hydroxyapatite in Stretched Double Network Hydrogel

著者:深尾一城、野々山貴行、木山竜二、古澤和也、黒川孝幸、中島祐、龔剣萍

公表雑誌:ACS Nano 2017, 11(12), 12103–12110

DOI番号:10.1021/acsnano.7b04942

 

付記

本研究は、北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラムならびに日本学術振興会による科学研究費助成事業、基盤研究(S)(課題番号:17H06144)若手研究(B)(課題番号:26820300)より助成を受け行われました。

 

用語解説

※1 ダブルネットワークゲル

一般的なハイドロゲルは1種類の高分子網目内に、多量の水を保持する形で存在しています。一方、ダブルネットワークゲルは異なる2種類の高分子網目(第一網目:硬くて脆い網目、第二網目:柔らかく良く伸びる網目)と水から構成されています。この2種類のネットワークが互いに助け合うことによって、ダブルネットワークゲルは天然軟骨に匹敵する強度を達成しています。

※2 ハイドロキシアパタイト(HAp)

骨組織は有機物(コラーゲン線維)と無機物からなる複合構造をしており、この無機物の主成分となるのがハイドロキシアパタイトであり、リン酸カルシウムの一種です。

※3 異方的・異方性

 方向によって異なる物性を示す性質のことです。

※4 ソフトセラミックス

 一般にセラミックスは脆い性質を示しますが、高分子材料と複合化することによってセラミックスの特異な性質を保ちながら、柔軟性を付与した材料のことです。

※5 広角X線回折

結晶構造の解析によく用いられ、X線が各構成原子からなる結晶面によって回折する現象を利用して、結晶の配向性や種類などの同定に用いられます。

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