北海道大学 大学院理学院 数学専攻 久保研究室 博士後期課程3年
福田 一貴 さん(群馬県出身)
●編入生ならではの思い出
修士2年から参加、QE1は数理連携で
当初は数学の教師を志望していましたが、研究の面白さに気づき、新潟大学の教育学部を卒業後、北海道大学大学院理学院の数学専攻へ進学。現在は非線形偏微分方程式論を研究テーマにしています。修士2年からリーディングプログラムに編入した当時、一番苦労した点は、通常のプログラム生が修士2年次に中間審査として受ける、未知の分野や数理連携の研究での調査能力と提案能力について問う「QE1」を編入試験として受けなければならなかったことです。他のプログラム生は修士1年で経験した「異分野ラボビジット」で得た知見を生かした研究提案ができるところを、自分の場合はゼロスタート。「数理連携」を軸に据え、苦労し試行錯誤しながらも、生体内での物質輸送を担う分子モーター、キネシンの集団運動を数理モデルを用いて解決する研究を提案し、ようやくスタートラインに立てた気分でした。
●先端共同研究
研究集会に積極的に参加、共同研究者と先端研究も
編入後、修士2年から博士2年までの間、本プログラムが提供する「独創的な研究活動費」の支援により毎年30万円の経費がおりたことは非常に助けになりました。研究活動費のための書類作成も日本学術振興会特別研究員への申請の予行演習となり、学振もあわせると研究活動がしやすい環境に。そのおかげで道内外のさまざまな研究集会に出席しているうちに、関連する研究テーマを持つ宮崎大学テニュアトラック推進機構の平山浩之先生と親交ができ、博士3年で取り組む研究提案としてのQE2のテーマには平山先生との「先端共同研究」を選択。メールやLINEで頻繁にやりとりし、ときには北海道と九州を行き来しながらディスカッションを重ねていきました。
●数理連携
対象にあわせて言葉を変える他者への視点を獲得
リーディングプログラムで一番痛感したことは、それまで自分が没頭していた数学研究の世界の“常識”と、他のプログラム生が共有している“常識”がかけ離れているという驚きでした。工学や生命科学と異なり、抽象的な数学の理論は目に見えて触れる物体がなく、物理的な用語で説明することが難しいことも多く、「福田くんの専門ってなに?」と聞かれたときは、「どのように話せば…」と苦労することもしばしば。自分が長らく触ってこなかった実験機材の使い方を教わったように、数学専攻以外のプログラム生には導入からわかりやすく説明する必要性がある。そうした他者への視点を持てたことはとても大きかったと実感しています。
●目標とする将来像
“数学で何ができるか”を問う次世代の数学者を
近年、AIやビッグデータ等の話題が盛んに報じられるようになり、それらを使いこなし、背景にある数学理論にも精通した、即戦力として活躍できる人材が求められています。このように、数学の力を使って自然科学全般の課題を解決しようとする試みは広く普及しており、社会のニーズを感じています。それは本プログラムが力を入れている「数理連携」でも同じこと。無論、数学者が数学を突き詰めていく本分はこれまでどおり重要だと思う一方で、少なくとも自分がいま見え始めているこれからの数学者像とは、“数学で何ができるか”を考えることができる人。将来は教育研究機関に就職を希望する自分ですが、学生たちを教育する側に身を置いたときも率先して、そういった次世代の人材を送り出す先例にならなければ。その自覚を強くしたリーディングプログラムでした。
※所属・学年等は2020年3月当時のものです。