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Ph.Dreams #040:【海外渡航レポート】環境モニタリングセンサーへのリザバーコンピューティングの応用に挑んだ松野さんに聞く

半導体人材育成支援基金の海外渡航助成制度を活用し、北海道大学 情報科学院 修士課程2年の松野史門さんが、ベルギーの最先端のナノエレクトロニクス研究機関imecと、農業・食・健康のトップ機関が共同で設立したOnePlanet Research Centerで研究に取り組みました。滞在期間中は、窒素化合物を計測するセンサーに対して、時系列データ処理を得意とするリザバーコンピューティングを応用し、計測値の補正や精度向上に関する研究を実施しました。松野さんに、研究内容や現地での経験についてお伺いしました。

所属・氏名 北海道大学 情報科学院 情報科学専攻 情報エレクトロニクスコース
集積ナノシステム研究室 修士課程2年 松野 史門さん
渡航先 imec(Interuniversity Microelectronics Centre)@ベルギー・ルーヴェン
OnePlanet Research Center @オランダ・ワーニンゲン
渡航期間 2025/9/1~11/29

※本記事は2026年2月の取材内容をもとに作成しています

imecとOnePlanet Research Centerに渡航しようと思った理由を教えてください。

私の研究テーマは、ニューラルネットワークの一種であるリザバーコンピューティング(以下、RC)です。RCは時系列データ処理に強く、比較的低コストで実装できる点が特徴で、実社会での応用用途を探していました。そのタイミングで、提出したエントリーシートを読んだimecおよびOnePlanet Research Center(以下、OnePlanet)の研究者の方から「時系列を扱える機械学習モデルに興味がある」と連絡をいただき、研究の話が進みました。

一方、imec・OnePlanetでは、窒素化合物を計測するセンサーを用いた環境モニタリングが進められていましたが、取得データが実態と乖離するという課題を抱えており、より高精度で低コストなセンサーネットワーク構築が求められていました。

今回の渡航では、「RCの応用先を探していた私」と「センサーの計測精度向上を目指す現地チーム」のニーズが合致し、共同で研究に挑戦することになりました。

窒素化合物を計測する背景には、どのような問題があるのでしょうか。

近年、ヨーロッパを中心に農業由来の窒素化合物排出が深刻な問題として捉えられており、特に、肥料を撒くタイミングで排出量が増えることが知られています。排出量が増えると、植物の多様性を損なうなど自然環境に悪影響が出るため、リアルタイムでのモニタリングが求められています。モニタリングを行うことで、地域全体の排出量を抑えた肥料散布方法や適切なタイミングを検討でき、原因の理解や行動につながる重要な情報が得られます。

実際に使われていたセンサー「NitroSense」には、どのような特徴と課題があったのでしょうか。

既存の計測システムは高価で大規模という課題がありました。そこで、OnePlanet では低コストかつ設置しやすい環境モニタリングシステムの実現を目指し、「NitroSense」というセンサーの研究が進められていました。オランダ各地の都市部や農家の近くなど、さまざまな場所で測定が行われていました。

窒素化合物計測を行うセンサー「NitroSense」と、滞在先の風景

ただ、NitroSense はまだ開発初期段階で、取得データが揃い始めたばかりでした。そして、出力にはノイズ、経年劣化、測定環境依存性といった問題が含まれており、そのままでは信頼できる濃度推定が困難でした。従来の補正手法では、こうした特性や窒素化合物の“時間的変動”を十分に扱いきれない点も課題でした。そこで私は、RC が持つ“時間ダイナミクス処理能力”に着目し、複数の入力情報を統合しながら時間発展を考慮した「排出量推定モデル」の構築を提案しました。これにより、より信頼性の高いデータに基づく意思決定が可能になると考えました。

RC はどういった点で NitroSense のデータ補正に有効だと感じましたか。

従来の補正手法は、観測値を「独立したデータの集合」として扱っており、濃度がどのように変化してきたかという“履歴”や“時間発展”を考慮できていませんでした。RC を適用することで、単なる瞬間的な測定値ではなく、環境中の窒素動態を反映した“動的な表現”を獲得できます。この特性が、環境モニタリングにおけるデータ解釈の精度向上に結びつくと考えました。

NitroSenseの測定値補正へのリザバーコンピューティングの応用イメージ
現地の研究者とのコミュニケーションについては、苦労する点などありましたか。

渡航前からオンラインで打ち合わせを行っていましたが、リアルタイムで意思疎通が難しかったり、ニュアンスが伝わりにくい場面もありました。しかし、現地でホワイトボードを使いながら議論できるようになると、情報のやり取りのスピードが格段に上がりました。あらためて対面で議論することの重要さを実感しました。私の英語はつたない部分もありましたが、現地の方々はとても親切で、真摯に耳を傾けてくださり、安心して議論を重ねることができました。

夕食を共にしながら研究テーマについてディスカッション
現地でプレゼンテーションをする機会もあったそうですね。

他の研究者向けに RC を紹介するセミナーを行いました。プレゼンの途中に質問がとんでくるなど、インタラクティブな形式でのプレゼンとなり大変な部分もありましたが、しっかり伝えられたと感じています。

セミナーに参加してくれた研究者の方々と
3か月の滞在で、研究は順調に進みましたか。

現地の研究者と協力し、関連論文の調査、モデル設計、実データによる検証を日常的に行い、結果として、従来手法と比較して予測精度を向上させることができました。測定数値に影響の大きい要素の特定と、それを考慮したアルゴリズムを構築することにより、時間発展を踏まえた窒素化合物排出量の予測が行えるようになりました。もちろん、検証はまだ十分ではなく、ちょうど“良い手応えが見えてきた”ところで帰国となりましたが、今後につながる基盤が整ったと感じています。

今後も共同での研究は続くのでしょうか。

論文投稿や学会発表を見据え、今後も研究を継続していく予定です。RCの新たな可能性を探るため、NitroSense 以外の応用についても検討していきたいと考えています。また、今回の研究を通じて得られた最大の学びは、国境や研究拠点を越えて研究を推進するという実践的な経験を積めたことです。英語で専門的な議論を行いながら、研究方針を調整する力が大きく向上したと実感しています。今回得られた研究成果をさらに発展させられるよう、今後も尽力してまいります。半導体人材育成支援基金を通じてご支援くださいました関係者の皆さまに、心より感謝申し上げます。

研究の発展への想いを語られる松野さん
松野さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

この海外渡航は、半導体人材育成支援基金の海外渡航助成制度を活用して実現しました。ご賛同いただける皆様からのご支援をお待ちしております。

関連リンク
半導体フロンティア教育研究機構(IFERS):https://www.semicon.hokudai.ac.jp/

※肩書、所属は、取材当時のものです。

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Update

2026.04.21

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