ミッション Ph.D.5つの壁を越える

優秀な学生にPh.D.(学位)を授与し、各分野の後継者として社会に巣立たせることは、理工系大学院の重要な責務です。しかし、博士前期課程(修士)に進学する学生は多いものの、学位取得を目指して博士後期課程(博士)に進む学生が長期的に見ると減っています。(※)本プロジェクトではこの減少の原因を次の「Ph.D.の5つの壁」と捉え、これらの障壁を乗り越え、取り除いていく活動を展開していきます。

※参照: 科学技術指標2019 3.2高等教育機関の学生の状況3.3理工系学生の進路

1. キャリアパスの壁

これまで博士課程修了者のキャリアパスは大学などのアカデミアが主流と考えられてきました。一方、多様な人材を受け入れながらイノベーションを推進する企業では、高度な専門性を持った博士課程修了者が活躍しており、そのキャリアパスは多様化しています。本プロジェクトでは、博士課程修了者に期待する多くの企業の声を伝え、「博士の就職は難しい」といった誤解を払拭していきます。

また、博士課程修了者を受け入れたことがない企業に対しては、博士課程修了者のアドバンテージを伝える場を増やし、学生たちのキャリアパスの可能性を広げます。

2. 意識の壁

キャリアパスの多様化に伴い、研究力だけでなくさまざまな能力が学生に求められるようになりました。そこで大学院教育では、研究室や専門分野の枠を超えて、課題発見力やコミュニケーション能力、表現力などを身に付ける教育プログラムを充実させてきました。北海道大学のALP(※)もその一つです。一方で「研究だけに打ち込むのが大学院生の本分」という考えも根強く、積極的に教育プログラムへ参加するのをためらう風潮があるのも事実です。このため、時代の変化に対応した学生自身やその周りの人々の意識改革も本プロジェクトの活動に不可欠と考えています。

※ALP: 博士課程教育リーディングプログラム「物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム

3. お金の壁

学部4年間、修士課程2年間に加え、博士課程3年間の学費、生活費を支払うことに比べて、学位を取得する社会的価値を長期的に捉えられない人や、経済的理由で進学を諦めざるをえない人も多く、憂慮すべき状況です。そこで、奨学金をはじめとするさまざまな経済支援の創出を働きかけ、経済的な不安から進学を躊躇する人を減らしていきます。

また、博士課程修了者のアドバンテージへの認知を向上させ、能力に見合った報酬が得られるような社会づくりを目指します。

4. 社会が持つイメージの壁

「高学歴ワーキングプア」という言葉に象徴されるような、博士学位を取っても思うような仕事が見つからず、極端に低い年収で暮らしているというイメージを持っていませんか?メディアによる衝撃的な事件の報道によって、「博士の将来には希望が持てない」といった印象が増幅され、博士課程への進学を心配する学生や家族が増えています。このように負の一面は広がりやすい一方で、多くの博士課程修了者がその高い能力を生かして企業を支え、社会で広く活躍している事実はなかなか伝わりません。本プロジェクトでは、進学を考える高校生や学生と先輩たちとの対話の場を増やし、博士課程進学に明るい未来を描いてもらいたいと考えています。

5. 支援制度の壁

欧米に比べると、お金や生活、将来を心配せずに大学での研究や勉学に打ち込める支援制度は不足しています。そこで本プロジェクトでは、学内外の組織と連携し、寄附を主軸とした経済支援、博士課程学生のための就職支援、多様なライフプランに応じた教育カリキュラムの見直しなど、多面的に博士課程学生を応援する制度整備に力を注いでいきます。