大学院生によるレポートシリーズ「Ph. Dreams」連載の7回目を担当したのは北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)に2021年度に採用された8期生の酒井聡史さん(北海道大学大学院総合化学院)です。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。
「酒井触媒」の開発を目指す
私は有機反応開発の研究をしています。具体的には、金属触媒と自分で作った配位子(金属に結合する化合物)を組み合わせ、ナノスケールの分子を立体的に制御し新しい有機反応を開発しています。実験とあわせて、計算化学も研究に取り入れ、分子同士が反応する瞬間をコンピューターの画面上で確認することもあります。夢は「酒井触媒」と呼ばれるような新しい触媒が、世界中の研究者に認識され、使ってもらえるようになることです。
自身の専門性や国際性を伸ばすために
さて、国内外を問わずどのような場所でも活躍できる人材になりたいです。そのために専門性と国際性を兼ね備えることが必要だと考えています。研究に熱心に取り組むことで他者に負けない専門性を身に付けたいと思っています。また、国際性を身に付けるために「視野を広げる」ことを心がけて生活しています。グローバル化が急速に進む現代社会において異文化理解を深めることは特に重要です。学部2年生の夏休みに学内のプログラムを利用し、タイの工場で2週間のインターンシップを経験しました。北海道と全く異なる環境での生活、タイとの文化性の違い、英語が母国語ではない者同士がコミュニケーションする難しさを知りました。同時に、国際理解が全く足りていないことにも気づきました。大学院生になっても感じています。ALPで学ぶことで自身の専門性や国際性を伸ばしたいと考えています。
そろばんが教えてくれた「行動することの大切さ」
趣味は「そろばん」です。小学校1年生の時にそろばんを始めて以来、大学院生になった今もそろばんを続けています。コロナ禍となる前は、毎年全道大会や全日本大会に参加していました。そろばんは長時間の練習が必要であり、大会前になると10時間以上練習をすることもあります。私が持つ集中力や粘り強さはそろばんが培ってくれたといっても過言ではありません。日本では、江戸時代から「読み書きそろばん」が重要な基礎的能力と考えられていました。実際、そろばんが集中力や忍耐力を高める効果があることは科学的に証明されています。ITの時代ですが、そろばんはただの計算道具ではないこと、そろばんという競技の魅力をもっとさまざまな人に知ってほしいという思いがあります。
そこで、大学2年生の時に、そろばんをやりたい人を募り「北大そろばんサークル」を立ち上げました。そろばんに関心を持った人がすぐに始められる環境を作りたいという強い希望と、仲間の後押しのおかげで実現したと思っています。勢いで立ち上げたサークルでしたが、想像以上に参加希望者が集まり、立ち上げたことへの感謝の言葉をもらいました。頭で考えているだけでなく、行動することで、人と繋がることができ、さらにその行動の結果が誰かのためになっていることに気づいた経験でした。日常生活においても行動することを大切に、視野を広げられるチャンスを活かせるようにしたいと思っています。