北海道大学理学部生物科学科(高分子機能学)では、キャリアパス教育の一環として、2、3年生を対象にした学科イベント「DCは語る」(DC:Doctoral Course=博士課程)を定期的に開催しています。博士課程の学生の研究生活や進学経験を聞くことで、進路の一つとして博士課程進学を考えてもらうことが目的です。2023年11月10日は、生命科学院 生命科学専攻 生命融合科学コース 博士2年の碓井 拓哉(うすい たくや)さんが学部2年生に向けて話をしました。
分子の構造から生命現象を理解する
所属する構造生物化学研究室は、タンパク質の構造解析が得意です。タンパク質分子は構造と機能に相関があります。分子の構造を見ながら機能についての仮説を立て、検証していきます。目に見えない分子の挙動を追うことで、生命現象を理解しようとしています。
自分の軸を持つために
学部生のときは高知大学に在籍していました。可能な限り多様な経験をしたくて、リゾート地でのアルバイト、海外旅行、企業インターン、夜間中学の指導員、専門家と一緒に山の生態調査など幅広く挑戦して過ごしました。就職活動に向けて自分の考えを整理する中で、ずっと何かをやり続けて軸のようなものを持った人間が理想的だと思うようになりました。一つのことに集中して取り組むことで軸を作りたい。そこで、やりがいを感じていた研究を続けてみようと、大学院進学を決めました。
きっかけはイカ
大学院では環境を変えるために外部への進学を考えました。その頃、ある学会誌に、イカの血液に含まれる超巨大タンパク質の解析結果が載っていました。イカを100杯以上さばいて、解析しやすいタンパク質をもつ個体を探したそうです。みんなでイカをさばく姿を想像し、雰囲気が良さそうな研究室だと思い見学に来ました。当時の教授だった姚 閔(ヤオ ミン)先生(北海道大学名誉教授)の人柄や、扱われているテーマの幅広さに魅力を感じてこの研究室に決めました。
困難なテーマも深めればおもしろい
与えられた研究テーマは、それまで4人の学生が取り組み、目的のタンパク質の構造を解くために必要なX線の回折データは得られていたものの、データの質が不十分であり、10年間かけても構造が解けないという難しいものでした。ところが修士2年のとき、超高精度でタンパク質の立体構造を予測するプログラムが発表されました。X線回折データから構造を計算する際に目的タンパク質の予測構造を利用すると、構造が解け、急に研究が進みました。
研究には運も作用します。ただし運を呼び寄せるためには、地道に研究を続けることも大切です。
当初は内容を全く知らずに始めたテーマでしたが、知れば知るほど興味が沸いてきました。どんな研究テーマも深めればおもしろくなるはずです。
研究は、やりがい十分
修士課程の2年間だけでは、研究にじっくり取り組めないと考え、初めから博士課程への進学を考えていました。研究はもちろんのこと、研究室での生活も楽しんでいます。大変なことは、論文出版のプレッシャーがあることや研究費の申請書作りです。しかし申請書を書くために背景を勉強し、研究をプロジェクトとして別の視点で見られる力がつきました。研究は、いくらでも熱中できます。苦労もしますが、自分の成長も感じられるので、僕は博士課程に進学してよかったと思っています。