大学院生によるレポートシリーズ「Ph. Dreams」連載の6回目を担当したのは北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)に2021年度に採用された8期生の斉藤空知さん(北海道大学大学院総合化学院)です。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。
こんにちは。ALP8期生の斉藤空知です。「空知」という名前は北海道の地名「空知地方」に由来しています。父がこの空知地方出身で、僕にこの名前をつけました。高校までは群馬県に住んでいましたが、名前にひかれて北海道大学に進学しました。北大なら初めて会う方もすぐに名前を覚えてくれます。「空を知る」と書いて空知。自然科学を学んでいるので、この名前はとても気に入っています。
誰も見たことのない高分子を合成するために
大学院では「天然物合成の手法を用いて高分子をつくる」研究をしています。天然物合成とは、本来自然界の生物や植物が産み出す複雑な化合物を人工的に作ることです。一方、高分子とは数千個以上の原子・分子がつながって、分子量が10,000以上になったものを指します。例としてポリエチレンやポリスチレンなどがあり、今や生活に欠かせないないものになっています。高分子は主に重合反応で合成されます。例えばポリスチレンはスチレンをたくさん用意し、それらをつなぎ合わせることによって作られる重合体です。これまで高分子は重合で合成されるのが一般的でした。しかし、複雑な構造を持つ分子を精密に合成できる天然物合成の手法を用いれば、これまでにない高分子が合成できるのではないかと考えています。誰も見たことのない高分子を合成するために、日々フラスコを振って研究を進めています。
サイエンスコミュニケーターになるために
さて、博士課程へ進む理由は様々ですが、理学部化学科の先生たちが僕にきっかけを与えてくれました。将来はサイエンスコミュニケーターになりたいと考えています。サイエンスコミュニケーターとは、研究者や技術者といった科学技術の専門家と社会の間に立ち、お互いの理解が深まるよう架け橋となる仕事です。科学によって問うことはできても、科学によって答えることのできない問題を社会の中で考えることもサイエンスコミュニケーターの役割です。大学3年生の時に多くの先生と話をする機会があり、そこで将来の夢を率直に語ったところ、全員に「それなら博士に行くべき!」と言われたのです。研究分野や価値観が異なる先生たちが、博士進学について口を揃えて進言してくれたことに驚きました。確かに化学を奥深くまで学べば、説得力をもってわかりやすく研究のことを伝えられるなぁ……と納得し、博士課程に進学することを決めました。将来のために、最近では研究だけでなくALPでサイエンスコミュニケーションを学んだり、地域のNPO法人に所属して多くの科学イベントに参加したりしています。今は北海道で少しずつ学んでいますが、いずれは空を超えて世界に貢献するサイエンスコミュニケーターになれるよう頑張ります。