2024年1月16日に開催された本企画は、Society 5.0 を生きる誰もが半導体の問題を自分事として考えることを狙いとしています。3部構成の第1部は日本経済新聞社の太田泰彦氏により半導体から見る世界情勢について語られ、続く第2部は太田氏も交えた有識者3名とのディスカッションへ。事前に寄せられた参加者からの質問も取り上げながら展開しました。
行政、産業、教育の立場から半導体ディスカッション
ディスカッションのメンバー4名は、行政の立場から北海道経済部の青山大介次世代半導体戦略室長、企業人のキャリアを持つ産業の視点で北海道大学総長特命参与の山本強名誉教授、教育の立場から本学の石森浩一郎副学長の3名が登壇。さらに日本経済新聞社の太田泰彦氏をモデレーターに迎えました。
はじめに青山氏が「次世代半導体をトリガーに世界に挑む北海道」と題して、2022年にRapidus社が日本初の製造拠点に北海道千歳市を選定したことから始まる次世代半導体プロジェクトについて概要を紹介しました。
建設予定の2棟の工場が2027年から順調に稼働すれば、14年間で18.8兆円の経済効果が期待されている(一般社団法人北海道新産業創造機構調べ)という桁違いのビッグプロジェクトの全容に皆が熱心に聞き入っていました。
このプロジェクトを北海道に根づかせるためには製造・研究・人材育成等が一体となった複合拠点を実現する必要があり「とりわけ人材育成については北海道経済産業局さんを中心とする協議会において様々な取り組みが行われており、すでに北海道大学さんや道内4高専でも人材育成強化が進められています。また、半導体の複合拠点と地域の産業を結びつけ、北海道全体で半導体のエコシステムを作っていきたいと考えております」と青山氏は期待を込めて語りました。
「半導体はあくまで部品」高度な半導体人材育成を担う北海道大学
富士通時代に半導体事業部に所属していた山本氏は、かつて自分が製造開発を手がけたLSIがネットオークションで2つ販売されていたのを見て、両方購入し、「一つをまず分解してみました」というエンジニアマインド溢れるエピソードを紹介。LSI製造プロセスのヒストリーを現場経験者のリアルな視点で振り返りました。
さらに山本氏は「どんな研究でも半導体につながる。それが、大学が半導体に取り組む重要なポイントです。半導体はあくまでも部品であり、製造プロセスだけでは機能しない。新しいコンセプトを作らなければいけない。そういうことを考えて、皆で一緒に躍りましょう」と呼びかけ、マイクを石森氏に渡しました。
北海道大学のDX博士人材フェローシップ事業統括でもある石森氏は「Rapidus社が求めているのは単なる労働力ではなく高度な人材。その意味で北大の役割は非常に大きいと感じています」と語り、改めて本学の半導体人材育成の重要性を強調しました。
一分野を究める研究姿勢が半導体異分野融合のプロローグに
進行役の太田氏によると、参加者からの質問は主に「技術的な話と人材育成、そして今後北海道はどうなっていくのかという国際的な位置づけ」の3点に絞られているといいます。
人材育成については石森氏が「半導体のような複合的な領域には、学院の壁を取り払った異分野融合が非常に重要になると思います」と回答。今はまだ自分の研究が半導体と直接結びつくかどうかわからない学生に向けては、山本氏が「まず、自分の専門を探求してください。北大生らしく物事や科学の本質をしっかり深追いしてほしい」とエールを送りました。
一分野を究めようとする研究姿勢がやがては異分野融合へのプロローグとなる。この話を聞いた学生からも「今は自分の好きなことをやっていこうと思いました」という前向きな声が寄せられました。
Rapidus稼働後、北海道はどうなっていくのか。第1部で太田氏が解説したような世界が依存している「半導体の島」台湾をめぐる米中の緊張感などを背景に不安の声も上がりましたが、これに対して太田氏は「半導体の産業や国家安全保障上の意味を考えると、現実問題として今後北海道は国際競争、国際政治に関わっていくことになると思います。それをポジティブに捉えるチャンスを与えられているのではないでしょうか」と、半導体最前線を知る記者の目線で回答。青山氏も「まずはこのプロジェクトを成功させることに注力するとともに、地域の皆さんに身近に感じてもらえるよう情報を発信していくのも行政の役割だと思います」と言い添えました。
Part 2以上
主催:北海道大学大学院教育推進機構・Ph.Discover
共催:北海道・北海道大学半導体拠点形成推進本部・北海道大学大学院理学研究院・北海道大学創成研究機構データ駆動型融合研究創発拠点
協力:えぞ財団