話題提供が終わると、後半はゲスト4名が揃うディスカッションの時間です。モデレーターは日本経済新聞社の太田泰彦氏。各ゲストが入社後に経験した価値観の転換期や博士人材が知りたい若手の育成法が語られました。最後は山口淳二理事・副学長が提示する北海道大学の半導体人材育成の展望について参加者は熱心に聞き入っていました。
最先端の研究開発を楽しみ、感性を磨く時間も大切に
株式会社日立ハイテクの沖田篤士氏は入社当初、大学時代の専門研究とは異なる分野を学ぶことから始まったと振り返ります。「エンジニア視点で考えると、どの分野でも最先端のことを学ぶのはやっぱり面白い。特に企業は研究に注ぐ投資額が大きく、純粋に楽しんで開発に携われるようになりました」
フォトレジスト研究を30年近く続けてきたJSR株式会社の島基之氏は「常に新しい研究開発が求められ、研究のマンネリ化がない」と語り、「研究成果が最新ゲーム機に採用されるなど、自分の成果物が世に出ていく楽しさもあります」と続けました。
半導体分野特有の技術ロードマップに触れた株式会社神戸製鋼所の釘宮敏洋氏。「ロードマップを実現するために従来路線の延長で進めていくのか、かつてIBMが全く新しいCMP(化学機械研磨法)を開発したように既成概念をひっくり返すような新技術に方向転換するか。そのポイントを常に見極めようとしています」
旭化成株式会社の久世直洋氏は新しい研究テーマを求め、4、5年かけて海外の企業や研究所100カ所近くを訪ね、技術者としてのアンテナが研ぎ澄まされたといい、「自分の感性を磨くこと」の重要性をうったえました。

何を開発すべきか、どうして開発すべきかを自問する
若手育成や適材適所について4人からの回答はーー。
「半導体研究は年々難しくなり、現場は視野が狭くなりチャレンジしなくなるなど負の連鎖に陥りがち。そうならないためにもJSRではここ数年、海外企業・研究所との共同研究に積極的に若手を送り出すなどして人材育成に努めています」(島氏)
「与えられた仕事に対する向き不向きやモチベーションの温度差はあって当たり前。大切なことはマネージメント側が伸びてほしいエンジニアに “この研究はこういう面白さがあり、あなたはそのスペシャリストになれる”と前向きに伝えることだと思います」(沖田氏)
「神戸製鋼の中でもよく自問する“何を開発すべきか、どうして開発すべきなのか”。この問いを自力で立てられるようになるとその人は間違いなく伸びていく。同時にエンジニアがそういう風に考えられるような指導を我々も目指しています」(釘宮氏)
「北海道大学のアメリカ並みの広いキャンパスを見ると、やはりここで研究してきた人たちは発想がおおらかになると実感しました。きっと皆さんの中にも北海道の開拓精神があるはず。先駆的な研究開発にどんどん参加してもらえたらと期待しています」(久世氏)

半導体を作ると同時に〈使う〉視点も持てる人材を育成
ゲストに大きな拍手が送られた後、山口淳二理事・副学長が閉会の挨拶に立ちました。
「皆さんもご存知の通り、2023年2月にRapidus社がIIM(イーム)を千歳市に建設することを発表してから日本中が“Rapidus祭り”一色になりました。その渦中にいる我々も地域の中核大学として何をすべきかを考え、過去に類を見ないスピードでさまざまな関連プロジェクトが進んでいます」
2025年4月に立ち上がる半導体フロンティア教育研究機構は、本学の半導体人材育成および研究の司令塔となり、海外の関連組織や大学との連携、企業との共同研究の中には「すでに進行中のものもある」とのこと。2025年度からは大学院の共通授業に10社以上の企業から講師を招き、最先端のホットイシューをリアルタイムで届ける枠を設けています。
「北海道大学が半導体産業にどう貢献していくかを考えたとき、一つはRapidus社をはじめとする先端企業をしっかりとサポートする仕組みを構築すること、そしてもう一つは半導体を作ると同時に〈使う〉視点、ユースケースの開拓をできるような人材を育成すること。ぜひとも実現させていきたいと考えています」
Part3以上
主催:北海道大学大学院教育推進機構・Ph.Discover(https://phdiscover.jp)
共催:北海道大学大学院理学研究院・北海道大学半導体拠点形成推進本部・北海道大学創成研究機構データ駆動型融合研究創発拠点・北海道大学WPI 化学反応創成研究拠点(ICReDD)
※肩書、所属は、カンファレンス開催時のものです。