Ph. Dialogue「博士人材セミナー」は、Ph. Discover連携企業からゲストを迎え「博士課程修了者が企業でどのように活躍しているのか」「企業は博士人材に何を求めているのか」について話していただき、後半はゲストと学生が対話を通して交流する企画です。18回目は松永敏弘さん、福島さん(株式会社DONUTS)、山田諒さん(株式会社アカリク)をお迎えしました。
株式会社DONUTS:
2007年の設立以降、新規事業参入を続け、クラウドサービス事業、ゲーム事業、動画・ライブ配信事業、医療事業、出版メディア事業を主軸としたサービスを展開。「10年、20年先にも価値を残せるサービスやコンテンツ」をテーマにさまざまな可能性を追求している。
株式会社アカリク:
2006年、博士新卒学生の就業支援事業、求人紹介サービスを開始。2010年に社名を株式会社アカリクに変更し、以降、「知恵の流通の最適化」を実現するため、大学院生・ポストドクターを対象とした人材サービスを軸に、さまざまな事業を展開。株式会社DONUTSのグループ企業の1つ。
私はDONUTSで新卒採用の責任者をやっている松永といいます。まずは我々のグループ会社の1つ、アカリクの代表の山田さんから、事業と取り組みについて、お話しします。
アカリクについて
株式会社アカリクの代表、山田と申します。元々、創業者の林という人間が京都大学の博士学生だったときに、周りにいる博士人材は非常に優秀だと感じる一方、民間企業は博士人材をよく分からず採用熱も高くないように感じ、このねじれを解消するために立ち上げたのがアカリクという会社です。
主なサービスは、(1)プロフィールや研究内容を入力していただき、それを見た企業からスカウトが届く「ダイレクト・リクルーティング」、(2)学生と企業を集めた「採用イベント」、(3)専任キャリア・アドバイザーが学生につき、求人紹介から面接対策、ES添削など、内定までをサポートする「就職エージェント」の3つです。
企業のニーズとその共通項
「選考において特に重要視する点をご選択ください」という問いを企業に投げかけたところ、主体性、コミュニケーション能力、チャレンジ精神、論理的思考力、課題解決力など、ソフト面が重視されていることが分かりました。大学院時代の専門性を重視する企業はそこまで多くないというのが現状です。
一方、従業員数1000名以上の企業の経営者や役員105名に対して、社会経済の不確実性に関する意識調査を行ったところ、7割が今までのビジネスを再構築する必要性が高まったと回答し、6割がその再構築に必要な能力は分析力であると回答しました。やはり現状や今後がどうなるのかを分析する能力を、社員に高く求めているということです。
大学院生の持つ能力
自身の研究テーマを活かした就職は、いわゆる専門就職と呼びます。一方、大学院生のベース能力は非常に高いと感じていて、その能力を活かした就職を、能力応用就職と呼んでいます。
文献やデータの使い方、科学に基づいた思考といった基礎的な教養、論文を書いて誰かに伝えるというアウトプットや調査・評価の能力、研究テーマを自分で設定して、いつまでに何をするかスケジューリングする自己管理力などは、特に博士課程の学生は高いと思っていて、そういったところを活かした就職を、我々は提案しています。
博士学生の観点で言うと当たり前の能力でも、一般的に見たらかなり高度であることが多い、という点をご理解いただければと思います。それをもう少し言語化していくと、企業からしばしば評価されるポイントとなる「研究活動で培われた能力」をしっかり把握することです。まず、背景、先行研究の把握というところで、体系的な理解を構築する学習能力や、そこから新しい課題を発見し、追求していこうと決める課題設定能力があります。学習が得意な方でも課題設定が非常に苦手な方が多いので、課題設定能力を高く評価する企業は多いです。
さらに、その後どうしたら課題が解決できるか、手段を模索する問題解決能力。具体的に解決するための解析能力や、共同研究者とのコミュニケーション能力。結果がどのような意味を持つのか、新たな展開を模索する考察力があります。
あとは学会発表や論文出版における伝達力、論理的な文章構成能力。これら研究活動のステップを計画立てて主体的に回していくスケジュールの管理能力、推進力、リーダーシップ能力があります。博士学生のこのような能力を企業は高く評価しています。
企業が専門を問わず採用する理由
企業が専門を問わず博士学生を採用する際の主な評価ポイントは4つあります。(1)論理的な思考力、課題を発見する力、解決する力と、(2)高い学習能力、(3)主体性、積極性があるところ。さらには、(4)リーダーシップがあるところ、以上が評価ポイントとなり採用に繋がっています。
また、ご自身で積極的に後輩の学生を指導し導いていくコミュニケーションスキルも高く評価されていることを皆さんにも理解していただいた上で、キャリア選定の1つの参考になればと思っています。
DONUTSについて:松永さんより
株式会社DONUTSについて説明します。設立は2007年なので今16年目の非常に若い会社です。私がいる東京を中心拠点として、西は福岡、東は札幌にオフィスがあります。主軸の事業は5つあります。
まずは、「ジョブカン」というクラウド型の勤怠管理システムの事業で、業界ナンバーワンのシェアを誇っています。次に、電子カルテという医療のDXに貢献する事業があります。3つ目が「ミクチャ」という、配信者さんの夢を応援する動画配信サービスです。4つ目がゲーム事業で、既存のIPを用いたり、自社オリジナルのIPブランド立ち上げたりしています。5つ目が主に女性誌を中心に展開する出版メディア事業です。
我々のビジョンは「プロダクトファースト」です。我々はとにかくいいもの、いいサービス、そしていいコンテンツ、とにかくここにこだわり続ける。ここを第一に優先する会社です。そしてプロダクトファーストにこだわり続けて、世界を変えたいと本気で思っています。
IT企業の使命は、常に時代の最先端で、人々の生活をより豊かにしたり便利にしたり楽しくしたりするサービスを世の中に出すことだと思っています。今ここで聞いている学生の皆さんは、今のこの世の中の現状維持をする側の人間ではなくて、ここから先の日本を作っていく人たちだと私は信じています。
つい最近、札幌の正式なオフィスが決まりました。コンビニが1階にある好立地な物件です。外観は綺麗なビルで、中はこれから作っていきます。一緒に札幌オフィスを作ることに、面白さを感じる人がいましたら、ぜひ一緒に札幌オフィスで仕事をしたいと思います。
博士人材に色々と聞いてみよう!
松永:DONUTSには博士号を取得した新卒の福島さんがいるので、これから5つの質問を投げかけてみようと思います。
福島:ゲーム事業部でサーバーエンジニアをしている福島です。東京理科大学の理学研究科で物理学の理論系の研究をしていました。ゲームと全く関係ないところからゲーム事業部に入り、サーバーを担当しています。
松永:就職活動で実際、具体的にどんなことが大変でしたか?
福島:就職活動が気がかりで研究に集中できなかったことが一番大変でした。両方を頑張ろうとするとどうしても中途半端になるので、3か月くらいで就活を終わらせることに決めて、最低限のゼミ以外は就活を優先し、短期決戦にすることを心掛けました。
松永:大学で自分がやっている研究の内容を就活で意識しましたか?
福島:DONUTSは私の専門とはまったく違う「ゲーム」の会社でした。研究内容はもちろん聞かれたら答えられるようにしましたが、それよりも、研究生活でなにを培ってきたのかを見直して、そこを売り込むことを重視しました。
松永:博士卒のメリットとは何でしょうか?
福島:研究職や同じような分野の専門職でなければ、一般的な民間企業ではあまりメリットは多くないのが現実だと思います。ですが、本気で博士号を取得しようとしたら、絶対に何かしらの能力が伸びているはずです。そういう能力が伸びているところを博士卒であることを根拠にアピールできるのは、メリットになると思います。
松永:DONUTSを選んだ理由は何ですか?
福島:博士課程に進んだのは、自分のしたいことをするためです。そこが、DONUTSのやりたいことをやって行くという会社としてのスタンスに共感できた点です。博士の研究では独創性が求められます。同じように、自社IPを自分達で0から築き上げようと本気で取り組んでいるところも、DONUTSを選んだ理由になっていると思います。
松永:就職するまでにやっておいた方が良い事はありますか?
福島:博士としてしっかりやってきていれば、就職後になにか特殊な技能が必要ということでない限り、特にこれをした方が良いということはないと思います。
コミュニケーションタイム
Q:修士1年です。博士課程に進んだ後、アカデミアに進むのか、それとも企業に就職するのかをまだ決めかねています。企業に就職されて、アカデミアとは違う魅力を感じていますか?
A(福島さん)
博士課程に進んでから、研究するよりも、ものを作る方が自分の性分にあっていると思ったので、最初から、博士を取って企業に行こうと決めていました。研究では数値計算系のことをしていたので、ITの方に興味があり、ITでものを作るなら面白いことをやりたいと思って、ゲームを選びました。
A(松永さん)
現時点では、どっちかにしようと決めてしまわない方が良いと思います。例えば少しだけ就活してみて、機会があれば企業に就職するというのでも、良いと思います。だから、0か100かというよりは、10%でも20%でもいいから少しやってみる。実際やってみると、思っていたのと違うかもしれないし、逆に企業への就職もあり得ると思えるかもしれません。実際にやってみるというのは、大切なことだと考えています。
Q:博士課程で行った研究の専門性だけではなく、例えば情報科学などでも高度な専門性を持っている学生は、就活を行う上で、それをどう売り出したらいいでしょうか?
A(山田さん)
研究テーマで実際にどういったものを得られたかをしっかりと言語化して伝えられれば、基本的には専門性のみならず、それ以外の周辺の能力も高いと思ってもらえます。また、2つの専門性をすでにお持ちで、例えば情報科学の方であれば、IT領域の企業からお声がけをいただくこともあります。宣伝にはなりますが、アカリクのエージェントを上手に使いながら方向性を定めていくのが良いと思います。博士に対する知識や情報を持っていない会社も多いので、ご相談頂ければ、そういった情報もお伝えできると思います。
Q:研究における課題発見能力が大切とのことですが、この課題発見能力はビジネスにおいても研究においても似たようなものなのでしょうか?
A(山田さん)
いくつかの現象において、事実がどうで何が課題なのかという現状の洗い出しができる人は結構います。そこから、自分たちの目的や目標を思い返し、現状との差分の問題点や他の課題点などを見つけ、優先度を付けながら、今やることを決めていく作業が、一番重要です。この課題設定という行為が、研究のプロセスとビジネスのプロセスとで近い部分であり、企業が高く評価するポイントとなっています。
開 催:2023年3月17日
主 催:Ph. Discover
共 催:北海道大学大学院理学研究院/北海道大学数理・データサイエンス教育研究センター(データ関連人材育成プログラム)/北海道大学博士課程物質科学リーディングプログラム