自治体と大学院生が協働した成果を発表
3月17日、理学部大講堂にて、令和7年度の「DX提案実践演習」の最終発表会が行われ、北海道大学の大学院生たちが、自治体の実課題に向き合ってきた成果を発表しました。当日は、富良野市・石狩市を対象としたDX提案プロジェクトに加え、北海道市長会と連携して進められた名寄市、登別市が対象の「北海道都市応援プロジェクト」の報告もあわせて行われ、学生と自治体、企業が協働し、社会課題の解決に取り組む北海道大学の共創教育の実践が印象づけられる場となりました。
実践知を育む大学院教育の場として
冒頭では、藤田修教授(北海道大学共創教育センター センター長)から、本取り組みの意義について説明がありました。大学院教育では専門性を深めるだけでなく、課題を発見し、本質を見極め、他者と協働しながら解決へ導く力が求められていること、そうした力はアカデミアにとどまらず、自治体や企業など多様な現場で生かされることが強調されました。今回の演習は、まさにそうした実践知を育む「共創教育」の場として位置づけられています。

DXの本質を学ぶ実践型プロジェクト
「DX提案プロジェクト」は、日本オラクル、富良野市、石狩市、北海道大学が連携して進めてきた実践型プログラムです。学生はIT企業の立場を想定し、自治体をクライアントとして地域課題の解決策を提案しました。単なるIT導入ではなく、データやデジタル技術を用いて新たな価値や仕組みを生み出す“DX”の発想を重視し、現地でのフィールドワークやヒアリング、データ分析、プロトタイプ作成までを行ってきました。今年度は「石狩市の子育て支援」「石狩市の防災」「富良野市のAIオンデマンド交通」の3テーマに取り組みました。
富良野市AIオンデマンド交通チーム:交通アプリ「ふらのり」を改善提案
AIオンデマンド交通「ふらのり」の予約アプリ改善に取り組みました。昨年度に抽出された「使いづらさ」や「認知度の低さ」という課題を引き継ぎ、高齢者や子育て世代を主な利用者像として設定。お気に入り経路や利用履歴から簡単に予約できる機能、子どもの乗降時や予約時刻を知らせる通知機能、リアルタイムの車両位置表示などを盛り込んだモックアップを提案しました。自治体側からは、「使ってみたいと思える内容」「これまでより大きく改善されている」と高い評価が寄せられ、事業化・実装に向けた検討の参考にしたいとのコメントがありました。

石狩市子育て支援チーム:LINEを活用した支援導線を提案
子育て情報の分散や相談体制の複雑さといった課題に着目しました。制度名を知らなければ必要な支援にたどり着きにくいこと、窓口に行けない人が相談の機会を持ちにくいことなどを整理したうえで、石狩市公式LINEを活用したミニアプリを提案しました。困りごとベースで情報を検索できる仕組み、AIチャットによる案内、オンライン相談予約、必要な人に必要な情報を届ける通知機能などを組み合わせ、利用者目線で支援につながる導線を設計しました。講評では、日常的に使われているLINEを基盤とした現実的な提案であり、利用者の視点が丁寧に反映されている点が評価されました。

石狩市防災チーム:平時から使える防災DXを提案
地域コミュニティのレジリエンス強化をテーマに、災害時の情報収集・共有の最適化と、住民同士の共助を支えるデジタル基盤のあり方を検討しました。提案では、災害時にだけ使う仕組みではなく、平時から住民に利用される設計が重要であるとの視点に立ち、高齢者にとってのアプリ利用のハードルや、既存の防災LINEの浸透状況、新たな仕組みを導入する際のインセンティブなど、現地の実情を踏まえて課題を整理しました。その上で、非常時に機能を切り替える緊急モードや、導入しやすさを意識したブラウザ版、通常時の利用を促す機能などを組み合わせ、防災を日常の延長線上で支える仕組みを構想しました。講評では、平時利用を重視した視点と、住民ヒアリングに基づく説得力のある課題設定が高く評価されました。

全道展開を視野に入れた「北海道都市応援プロジェクト」
「北海道都市応援プロジェクト」は、北海道市長会と北海道大学などが連携して令和7年度から始まった新たな取り組みです。人口減少や職員不足、DX化の進展といった自治体を取り巻く課題を背景に、大学院生が地域に入り、各地のまちづくり課題に挑むもので、今年度は登別市と名寄市をフィールドに実施されました。北海道大学で先行してきた自治体連携の実践を、より広く全道へ展開していこうとする試みとして位置づけられています。
登別チーム:観光と市民生活を両立する交通モデルを提案
公共交通空白地域に暮らす高齢者の移動確保と、観光客の集中による交通混雑という二つの課題をテーマに活動しました。登別駅、温泉街、ウポポイ方面をつなぐ移動のあり方を見直し、市民生活を支える交通と観光客の移動需要を両立させる新たなモデルを検討。人口減少時代の地域交通を持続可能な仕組みとして再設計しようとする提案であり、実装に向けては財源や収益性も含めた制度設計の重要性が共有されました。

名寄市チーム:夏季観光の活性化に向けた提案
冬に比べて弱い夏季観光の活性化をテーマに、旭川空港から名寄市内へのアクセス改善と観光を組み合わせた日帰り型のバスツアーを提案しました。移動手段の確保にとどまらず、名寄の自然や食、地域資源を体験できる観光商品として設計し、ラッピングバスによるPRや地域通貨の活用なども盛り込んだ内容で、認知度向上と再訪促進の両立を目指す構想が示されました。

社会実装へつなぐ大学院生の挑戦
石森浩一郎 理学研究院教授(副学長・Ph.Discover代表)は閉会の挨拶で、「大学というのは0から1を生み出すところ」ですが、「実際にそれを社会で使うのは1じゃダメで10ぐらい必要」と述べ、今回の発表はまさにその「1から10」を体験する機会だったと振り返りました。研究室の中だけでは得られない現場との対話を通じて、学生たちは課題の本質に迫り、提案を具体化し、実装に近づけるプロセスを学びました。今回の最終発表会は、そうした実践の積み重ねが、自治体や企業の現場と結びつきながら社会課題の解決へと広がっていく可能性を示す場となりました。石森教授が「大学としても非常に教育効果の高いものだと思っています」と述べたように、本取り組みは北海道大学が進める共創教育の重要な実践の一つとなっています。

本取組は各メディアで紹介されました。
・北海道新聞(2026年3月17日)
子育て支援や交通対策…DXで自治体の課題解決 北大院生が成果報告会
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1288608/
・北海道新聞(2025年8月2日)
名寄の夏観光、産学官で開発 道市長会プロジェクト 来春発表会 マチの認知度向上期待
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1194172/
・Webむろらん(2026年3月30日)
「空き家をバス停までの休憩所に」 北大大学院生登別市に提言、北海道都市応援プロジェクト
https://www.muromin.jp/news.php?id=141399
レポート:大津珠子(理学研究院)