2021年6月24日(木)、北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下、ALP)3期生3名の修了式が、理学部大会議室にて執り行われました。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための教育プログラムで、特に、数理科学と科学技術コミュニケーション教育に力を入れています。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての補助期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。修了証書授与のあとプログラムコーディネーターの石森浩一郎理学研究院教授(北海道大学副学長)より祝辞があり、修了生が挨拶を述べました。
石森浩一郎ALPコーディネーターの挨拶
修了者の皆さん、ALPを代表して心よりお祝い申し上げます。特に、この最終年となった1年間はコロナ禍の影響で大変だったはずです。いろいろと不自由もあったかと思いますし、先行きはまだ不透明のままですが、修了式を迎えられたことを大変嬉しく思っています。
さて、コロナ禍の影響で最近よく目にするビジネス用語に「K字回復」があります。「K」の字のように業績などが上に行くパターンと下に行くパターン、上下に開いて二方向に進む状態です。何がその二極化の原因となっているのでしょうか。私は「物事の捉え方」だと思っています。何事にも多面性があって、ステイホームで家にこもっていても物事の多面性を捉えることができれば、「K」の右上の線のように新たなビジネスチャンスを見つけて業績などが伸びていくことが可能となります。
もう一つ、全く異なる視点から物事を眺める力も起因しているかもしれません。いわゆる異分野融合でしょうか。ご存知の方もいるかもしれませんが、スティーブ・ジョブズの逸話を紹介させてください。1972年、彼はオレゴン州のリード大学に入学しましたが、授業に興味を持てず、あっという間に中退しました。でも一つだけ、退学してからも熱心に通った講義がありました。それはカリグラフィです。カリグラフィとは西洋の文字をより美しく見せようという手法です。一つの芸術体系として日本の書道とも通じますよね。すごく熱心にでもコッソリ、カリグラフィーの講義に出席していたそうです。
そして、後に彼がコンピューターを開発するとき、美しい書体(フォント)にこだわりました。皆さんはMacintoshでもWindowsでも、パソコンで綺麗なフォントを使えるのは当たり前だと思っているでしょう。しかし、ちょうど私が大学院生のころ(1984年)にApple Macintoshが発売され、マウスによる直感的な操作、マルチウィンドウ、アイコンによるファイル管理、それまでになかった美しいフォント、さらにフォントの線の太さの変化も表現し、パーソナルコンピュータの歴史に革命が起きました。1970年代中ごろに普及し始めたパーソナルコンピュータは、ドット数の少ない8ドットの英数字を使っていたのです。
もちろん、ジョブズは、コンピューターを作りたくてカリグラフィを履修したわけではありません。時を経てテクノロジーとリベラルアーツが交差したのです。それはまさに異分野融合です。離れた点と点を繋ぐ能力があったのです。さらに、そういう「点」をたくさん作ることを彼は勧めています。「点」は2つ以上無ければ繋げません。皆さんはALPを修了することで、いくつか「点」を作ったと思います。これからも「点」を増やしてください。専門性だけではなくて、それ以外のところに「点」を作る……それがいずれ、どこかで繋がるはずです。
ジョブズは、カリグラフィを学んでからコンピューターを作るまで10年以上かかりました。皆さん、皆さんの人生は始まったばかりです。ALPで培った経験を10年後に思い出してみてください。そして俯瞰力をもって、遠くから、さらに別の角度から眺めてみてください。「点」と「点」があったとしても、遠くから眺めないと繋がるかどうか分からないものです。俯瞰力と異分野融合力はALPでしっかり学びましたよね。今日をスタートラインに、「点」と「点」をつないで世界を変えるような、新しいものづくりやサイエンスに挑戦してほしいと願っています。
修了生の挨拶をダイジェストにまとめて紹介
大塚海さん:最初に非常に厳しい状態だったにも関わらず、このような修了式を開いていただいたことに感謝申し上げます。ALPの活動中にも何度か感じていたことですが、プログラム生を大事に育てて行こうというサポートの姿勢が、僕ら学生にとってはありがたく、今日も改めてそれを感じているところです。
ALPを修了後に、アメリカにポスドクに行くことになりました。私にとって今まで経験したことがないことですが、海外渡航支援やサマーキャンプなど、ALPの体験が海外への進路を選ぶきっかけとなりました。この厳しいコロナの影響もあって、僕のポスドク雇用期間は、1年間しか保障されていません。これは、ある意味、逆境ですが、ALPでの経験がこの逆境を打ち破る僕の力になってくれると確信しています。石森先生が紹介されたように、物事を多面的に見るべきだと思います。企業セミナーで、企業でも研究が続けられることを学びましたし、アウトリーチ活動を通して、市民と科学を繋ぐ活動も僕ができる仕事の中に入ってくると思っています。自分の可能性を気づかせていただいたので、それを糧に邁進していきます。
福島綾介さん:本日は、修了式を開いていただきまして、誠にありがとうございます。まさか……僕は確実にオンラインになると思っていたので(笑)嬉しさと同時にびっくりしました。
5年間、ALPに在籍したわけですが、あっという間でした。ALPの活動を通して、私個人が影響を受けて大きく変化したことがあります。非常に視野が広がりました。異分野の方、企業の方、いろいろな方との交流を通じて広い観点で物事を捉えられるようになりました。自分の人生についても俯瞰的に眺めて「ポスドクだけではないな」と考え、いまは民間への就職活動をしています。今後のことはまだ決まっていませんが、頑張ることができる自信はあります。いままで本当にありがとうございました。
愉 彦樺さん(大学院総合化学院博士課程修了)は欠席しました。