大学院生によるレポートシリーズ「Ph. Dreams」連載の22回目を担当したのは北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)9期生の近藤祥子さん(2022年度採用/北海道大学大学院生命科学院/北大DX博士人材フェローシップ生)です。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。
私の原点
私は徳島県出身で、地元や香川県の祖父母の家で生き物や植物と触れ合いながら成長しました。海や川、山々といった自然あふれる土地で過ごした18年間は、私が生物学を志した原点です。
北海道の豊かな自然に地元と通じるものを感じたことも、北海道大学へ進学を決めた理由のひとつです。母の影響で小さい頃から料理やお菓子作りが好きだったので、自炊生活を伴う一人暮らしに憧れもありました。快く送り出して支えてくれた両親にはとても感謝しています。総合理系で入学しましたが、自分の知的好奇心に従って研究ができる理学部に魅力を感じていたため、入学時から生物科学科/生物学専修への移行を希望していました。学部時代に講義や実習を通して幅広い生物の知識を学んだことが、今の研究生活にも生きています。
人との縁
大学生活では、学業はもちろんのことサークル活動や飲食店のアルバイトにも力に入れました。大学入学と共に新しいことに挑戦しようと、スポーツ経験もないのにセパタクローという東南アジアの球技のサークルに入部しました。
競技はレグという3人一組で行うのですが、練習や試合を通してチームワーク次第で個々の技術以上の戦いができます。協力することや支え合うことの大切さを学ぶ貴重な機会になりました。忙しいくらいが性に合っているので、研究生活の合間に練習や大会に参加しています。アルバイトの接客業を続けたことや、複数のコミュニティーに所属して様々な交流を持ったことは、たくさんのご縁を運んでくれただけでなく、対話力を身につけ、広い視野を持つことに繋がったと思っています。
経験の繰り返しである研究生活
私の専門は生殖発生生物学で、メダカの排卵現象に着目した研究を行っています。日本人にとって身近なメダカは、繁殖時期には毎日排卵するという特徴を持っています。卵巣の中で、卵母細胞は濾胞(ろほう)組織と呼ばれる細胞層に包まれたまま成長していきますが、排卵時には卵巣内に取り残されます。この取り残された濾胞組織は迅速に分解されるのですが、その分解がどのように行われているのか、分子レベルで明らかにしたいと研究しています。生物の体の仕組みや機能はとてもうまくできていて、その現象がどのように制御されているのか、どのように関わり合っているのかなど、疑問はつきません。自分の研究から、これまで誰も知らなかったことが明らかにできるかもしれないという期待感が研究のモチベーションのひとつになっています。
※濾胞(ろほう)は、ひとつの卵母細胞を含む球状の構造で卵巣の中に多数存在します。濾胞組織は、この卵母細胞を包んでいる細胞層のことを指します。
人生で経験したことは、喩えそのときには意味のないものに思えても、必ず自分の中に残っていてその後の選択やさらなる経験へと影響を与えると思います。小学生の頃から何世代も引き継ぎ大切に飼育していたメダカの研究に、大学生になり携わることになり、運命のようなものを感じています。ALPでの経験も、これからの私に大きな影響を与えることでしょう。自分の知っている世界だけにとどまらず様々な経験をすることが、これからの自分の世界を広げることにも繋がっていくと信じて、挑戦し続けたいです。