2025年3月19日(木)、北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)7期生の碓井拓哉さん、佐藤丈生さん、野口真司さんの修了式が、理学部大会議室にて執り行われました。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための博士課程大学院教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての補助期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。修了証書授与のあと、3名の修了生がこれまでの活動を振り返って、挨拶を述べ会場から大きな拍手が送られました。続いて、石森浩一郎理学研究院教授(プログラムコーディネーター・副学長)がはなむけの言葉を贈りました。
碓井拓哉さん(生命科学院)の挨拶
本日、無事に修了の日を迎えられたことを、心から嬉しく思います。私は高知大学を卒業後、大学院進学を機に北海道大学に進学しました。当初は知り合いもいなくて不安の中で始まった大学院生活でしたが、このプログラムに参加したことで、分野や専攻を越えた同期とのつながりが生まれ、大きな支えとなりました。博士課程では研究に没頭する日々が続きがちですが、ALPを通して異分野ラボビジットや企業との連携プロジェクトなど、多様な経験を重ねることができました。坂口先生の研究室では自分とは異なる研究スタイルに触れ、企業コンソーシアムでは仲間とともに地域課題の解決提案に取り組み、異なる視点の重要性を体感しました。このような経験が、自分の視野を大きく広げてくれたと実感しています。多くの方々の支えがなければ、ここまでたどり着くことはできませんでした。ご指導くださった先生、特に尾瀬先生と姚先生に、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
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佐藤丈生さん(生命科学院)の挨拶
博士課程進学を前に、経済的な不安や専門に閉じこもることへの懸念がありました。そうした中で、自身の研究に加え多様な経験を積みながら視野を広げられるALPに魅力を感じ、参加を決めました。ただ、参加前に指導教員や先輩から「大変だよ」と繰り返し言われていた通り、実際に待ち受けていた道のりは想像以上に険しいものでした。特に苦労したのはQE1で、未経験の分野を調べ、研究提案としてまとめ上げることはとても困難でした。何度も書類の修正を繰り返し、そのたびに佐田先生や坂口先生の丁寧なご指導に支えられました。感謝してもしきれません。国際シンポジウムの運営や、モントリオール大学での研修など、他では得がたい経験も重ねることができました。こうした挑戦の積み重ねが、確かな成長につながったと感じています。4月からは博士研究員として新たな一歩を踏み出しますが、ここで培った「学び続ける姿勢」を忘れずに、柔軟な視野をもって歩んでいきたいと思います。ありがとうございました。
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野口真司さん(総合化学院)の挨拶
約4年半にわたるALPでの経験を通じて、最も大きな学びは、「変化の時代を見極め、適応し、貢献する力」を養えたことだと感じています。AIやロボット技術が進化する今、研究者に求められているのは、既存の枠にとらわれず新たな価値を創造し、それを社会に還元する力です。プログラムを通じては、研究倫理の再考や自己発信力の強化、産業界との接点の模索など、多様な機会に恵まれました。これらを通じて、自分の研究を社会にどう活かすかを深く考えるようになりました。その過程は決して平坦ではなく、QE2の受験などを通じて自らの弱さを痛感する場面もありましたが、そのぶん確かな成長を実感しています。こうした成長の機会に恵まれたのも、何より、ALPでの活動に深いご理解をいただいた指導教員・忠永清治先生、そしてALPの活動を支えてくださった石森浩一郎先生をはじめとするプログラム関係者の皆さまのおかげです。心より感謝申し上げます。今後は研究者として、まずはアカデミアの道を突き進んでまいります。ALPで培った経験を胸に、産官学の垣根を越え、新時代を切り拓く研究者を目指します。見ていてください。
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石森浩一郎コーディネーターの挨拶「知と責任を携えて──これからの博士に必要なこと」
リーディングプログラム第7期生の碓井さん、佐藤さん、野口さんの修了を心よりお祝い申し上げます。プログラムに関わる教員を代表し、この場でお祝いの言葉を述べられることを大変光栄に思います。皆さんが本プログラムに参加されてから、コロナ禍をはじめ多くの困難や変化に直面されたことと思います。そのような環境の中でも粘り強く取り組み、研究者として、そして一人の人間として大きく成長された皆さんに、改めて敬意を表します。
近年、社会が博士人材に求める力について、AIに尋ねてみたところ、複数のモデルが共通して「5つの力」を挙げました。それは「専門力」「問題解決力」「コミュニケーション力」「リーダーシップ」、そして「社会的責任と倫理性」です。この結果を見て、私は少し驚くと同時に、深く納得しました。なぜなら、これはまさに、リーディングプログラムが立ち上げ当初から重視してきた価値そのものだからです。
まず「専門力」は言うまでもありません。博士課程の本分であり、各自の分野での高度な知識と技術が求められます。とくに現在は、AIやデータサイエンスといった新たな知のフロンティアが急速に広がっており、それらを理解し、活用できる素養も不可欠となっています。専門を深めながらも、新しい技術に敏感であることが、今後ますます求められていくでしょう。
続いて「問題解決力」です。これは単に専門内の課題を解決する力ではありません。複雑で正解のない問題に対して、柔軟かつ実践的に取り組む姿勢が求められます。異分野の知識や視点を取り入れ、社会との接点で生じる課題に対してスピーディーかつ現実的に対応する……そのような力が、博士人材には必要とされています。
「コミュニケーション力」についても、専門内にとどまらない広がりが重視されます。異なる分野や文化的背景を持つ人々と、相互理解を築きながら協働する力が問われています。近年では「共感力」という言葉で表されるような、相手の立場に立って考える能力も、博士人材に求められる重要な資質となっています。
そして「リーダーシップ」。これはラボ内での役割にとどまらず、多様な立場の人々を束ね、目的に向かって協働できる統率力を意味します。ALPでは、グループワークや異分野協働の機会が数多く提供されました。その経験こそが、今後社会で真に価値を発揮するリーダーシップの基盤となるはずです。
最後に「社会的責任と倫理性」です。科学者や高度専門人材が生み出す知識や技術は、社会に大きな影響を与える可能性があります。だからこそ、自らの研究がもたらす影響を考え、誠実に向き合う姿勢が求められます。とりわけ日本では、東日本大震災後に科学者への信頼が揺らいだ経験を持つことから、その責任は一層重く感じられるべきでしょう。
皆さんはこのプログラムを通じて、これらの力を体系的に学び、実践してこられました。ここで得た知と経験をもとに、社会に新たな価値をもたらす存在として、ぜひ自信を持って次のステージへと歩みを進めてください。皆さん一人ひとりの今後の活躍を、心より期待しています。
最後に今年度退任される七澤淳先生(客員教授)からメッセージをもらいました。
7期生の皆さん、ご修了おめでとうございます。
ALPは、どの期の学生にとっても「本当に大変だった」と語られる密度の濃いカリキュラムでした。自身の研究に取り組みながら、数々のプログラムをこなすだけでなく、後輩の指導にもあたる。そのすべてをやり遂げた皆さんの努力とエネルギーには、心から敬意を表します。7期生は、たった3人という少人数の期でしたが、それだけに議論も活動も極めて濃密で、本質に迫るような体験が多かったと思います。特に企業コンソーシアムでは、技術はあるがその活用法が見出せないという難題に向き合い、試行錯誤の末、物質科学の力で社会に貢献する可能性を導き出すという、確かな成果に結びつけてくれました。