無機合成化学研究室で、無機ナノ粒子の機能材料化について研究している野口真司さん。いつも情熱を持って生きることを大切にしながら、研究者としてもビジネスパーソンとしても、社会に貢献できる人物を目指しています。そんな彼は、現在どのような学生生活を送っていて、何を考えているのでしょうか。博士課程へ進学したきっかけや、野口さんが見据えている将来に迫ります。
現在、どのような研究をしていますか?
構造色を発現する無機ナノ粒子の合成です。私は学部4年次から無機材料化学の研究をしていましたが、修士課程1年の時、学内留学で生命科学院のソフト&ウェットマター研究室(龔 剣萍 教授)に1ヶ月ほど滞在して研究活動を行いました。この研究室で開発された構造色ゲルの構造によって発色するゲルを見て、無機材料合成の観点から構造によって発色するだけでなく、材料その物の機能と合わせることで、より幅広い色合いを表現できる材料が作れないかと考えました。もともと無機化合物の合成をテーマに研究を行っていたので、これまでの研究の知見を活かすことにより、粒径が均一にそろった無機微粒子を合成し、種々の化学的な手法で特定波長の吸収能を持たせる手法を開発しようと考えました。
構造色について少し説明します。光の波長以下程度のスケールで周期的な構造を有する材料は、特定の波長をもつ光のみが干渉しあうことで、特定の色に発色します。干渉する光は周期構造の大きさによって決定しますが、私は周期構造の大きさの他に、周期構造を構成する物質自体の光学的特性を制御することで、構成する物質の構造と光学物性の2つを制御して特定の色を発色する材料の開発を目指しています。そして、この材料により、人体に害が少なく、長い期間色あせない着色法を実現することが研究の最終目標です。
出典:千葉市科学館HP「色がないのにカラフルなもの」
(https://www.kagakukanq.com/2021/22458)
大学院への進学を決めたきっかけを教えてください。
純粋に自身の専門分野が好きで、指導教員である忠永 清治先生の研究哲学を受け継ぎたいと思ったこと。そして、これから約40年以上働くことを考えると、博士号を取得したほうが、自分が思い描く人生を送ることができると考えたからです。博士号を取った後は、研究を続けたければ北大や他の大学で研究を続けるも良いし、民間企業に行くこともできます。とくに海外で自分のやりたいことをするうえでは、博士号は信頼にも繋がるでしょう。そういった意味で、自分の人生の選択肢を広げられました。今の私にとって博士課程は、自分の研究を進めながら博士号という資格を取ることができる期間、という認識でいます。
現在行っている研究について説明する野口真司さん
今の北大での研究環境はいかがですか?どう感じていますか?
北大はとても良い研究環境だと思います。そして研究室にも恵まれていると思います。一方で、もっと広い視点で、将来の大学院研究を心配に思うことがあります。現在、多くの研究室では、研究成果を挙げるための研究費を獲得する競争が熾烈です。環境や教員に恵まれている研究室や、研究成果が出しやすい研究分野に人が集まり、より成果が得やすくなる一方で、本当は面白い研究テーマや、成果を出すのが難しいけど将来も必要な研究分野には人が集りにくくなっていると思います。
研究で最も重要なのは、多様性だと考えています。ですから、自分以外の誰もやっていないことに挑戦しようとする野心あふれる人が研究環境の差に屈せず、大志を成し遂げられるような環境を整備することも、国や大学に求められていると思います。
フロンティア応用科学研究棟のホワイエ(後ろは「鈴木 章」名誉教授)
研究や研究以外で熱中していることやこれからやってみたいことを教えてください
研究では、自分の研究内容で特許を取得し、商品化、そして起業もしてみたいと考えています。想像するだけで非常に大変な道のりですが、自分で一から研究を作り上げ、それが人々の生活に役立つものになる、そんな未来を目指し、日々研究に取り組んでいます。研究以外では、バイクの運転、体づくりに熱中しています。バイクで気持ちの良いシーズンに北海道を走っています。体づくりでは、ジムに通って定期的に体を動かしています。
野口真司さんがハマっているバイク(左)とベストボディジャパン札幌大会でのパフォーマンス(右)
将来は、どのような進路や職業を目指したいですか?
私は現在、「北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム」生として、学位取得後は学術・研究機関だけではなく民間企業でも国際的に活躍できる人材となるための教育を受けています。このプログラムを活かして、将来どんな機関で働いていても、課題の発見・解決を目指してプロジェクトを牽引できる研究者を目指しています。大学は教育と研究を通し、社会に高度な人材を送り出す役割を担っていますが、民間企業を始めとする、いわゆる学術・研究機関以外の社会で活躍してきた大学の教員は数が限られています。自分が培ってきた高度な専門能力を教授するのはもちろん、社会でその能力を生かすための技術を次の世代に託すことのできる、そんな学生を育てる研究者・教育者になりたいですそのためにも、今は研究能力の向上はもちろん、多くのことに興味を持って、大学で得られるものすべてを得て、博士後期課程を修了したいと思います。
今の自分を形作った著書について説明する野口真司さん
情熱をもって未来に向かっている野口さんですが、逆に将来に不安を感じていることはありますか?
大学に通えることがどれだけ恵まれていることなのか、どれだけ周囲に助けられて今の自分たちがあるのか、ということを真に理解している学生が少ないことが不安です。基本的に大学に通えている人はみな恵まれていますし、自分の力だけでなく、必ず周りの人の協力があったから今の自分があるはずです。何が正しいかという問いについて考えるときも同じで、なんとなく周りもそう思ってそうだからということではなくて、きちんと自分で体験して考えて答えを出さないと見えてこないと思うのです。幸い北大は、校風のおかげか志のある人が多いので、周りの夢を持って生きている人たちに刺激を受けながら、自分も頑張っています。
野口真司さんの考え方や行動に影響を与えた著書
最後に、野口さんにとっての「北大大学院」とは何ですか?
Laugh now, but one day we’ll be in charge. (笑っていられるのもいまのうちさ、もうすぐオレたちの出番がくる)
出典:Banksy「Laugh Now」(https://www.banksy.co.uk/)
研究だけでなく、様々な視点で理想を語ってくれた野口さん。自分の将来だけでなく、社会へ貢献する強い意志を持った目と言葉が魅力的でした。取材へのご協力、ありがとうございました!
野口さんは、2022年11月1日(火)よりご自身の研究のためクラウドファンディングに挑戦しています。応援をよろしくお願いします。詳細はこちらをご覧ください。
編集:学務部学務企画課教育改革推進室 内藤輝章
撮影:2022年10月 高等教育推進機構/大学院教育推進機構 川上あき・学務部学務企画課教育改革推進室 内藤輝章