2023年3月10日(金)、北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)8名の修了式が、理学部大会議室にて執り行われました。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための博士課程大学院教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての補助期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。修了証書授与のあと、山口淳二理事・副学長(プログラム責任者)より祝辞がありました。
会場となったのは90年以上の歴史がある理学部本館大会議室です。第4期〜第5期生として修了した8名は、約5年間のプログラムを振り返り、身につけた能力やスキル、異分野の仲間との絆の大切さについて、一人ずつ答辞を述べました。堂々とした挨拶に会場から大きな拍手が送られました。続いて、石森浩一郎教授(プログラムコーディネーター・副学長)が修了生にエールを送りました。
山口淳二 プログラム責任者(理事・副学長)の祝辞
ALPの代表者として、また、北海道大学の教育担当理事・副学長として、皆さんが無事、修了の日を迎えたことに、心よりお祝い申し上げます。皆さんがALPに採用され、様々なカリキュラムやイベントに挑戦しようと思った矢先にコロナ禍に見舞われました。大学としても感染防止と研究、教育の継続を両立すべく様々な対応をしましたが、大変不自由な期間であったことは間違いありません。特に、国内外への出張等だけではなく、研究室の立ち入りも制限されたことは、ALPでの専門力プラスαの力だけではなく、肝心の専門力を深める場でも大きな困難があったと思います。それでも、皆さんはALPのカリキュラムを修了し、コロナ禍前と同様に圧倒的専門力とプラスαの力をつけてこの場に集まっています。コロナはこれまで世界が経験したことのない大変な状況でしたが、それを耐え抜いたからこそ学べたことも多いはずです。ネットワークを利用した学習や活動はSociety 5.0の社会でその重要性を増していくでしょう。これから先も世界は予想もしない方向に物事が進むかもしれません。しかし、周囲の環境が大きく変わる中、常にその状況を見極めて必要な情報を収集し、変化に対応するだけでなく、その変化を逆に利用することで、みなさんの能力は試されます。これから先、皆さんがそれぞれの分野で活躍されることを心から願っております。
修了生全員が挨拶を述べました
藪田 明優さん:ALPがなければ、博士課程に進学することはできなかったと思います。ALPでのイベントは大変な部分も楽しい部分もありましたが、全てをひっくるめて人生の糧になったと思っています。現在は民間企業で働いていますが、このプログラムで学んだこと活かして、活躍していきたいです。本当にありがとうございました。
石坂 優人さん:大学院では他の人が学べないことを学びたいと思い、迷わずALPの試験を受けました。当初はALPと研究の両立に悩みましたが、そのお陰で時間の使い方や文書作成スキルなど、産学官どこでも生かせる能力を身に着けることができました。私の人生を変えたイベントを3つ紹介します。1つ目は修士1年次の異分野ラボビジット、2つ目は修士2年次の台湾サマーキャンプ、3つ目は博士2年次の理研インターンシップでの共同研究です。4月からはドイツのゲッティンゲン大学の博士研究員として、実験と計算科学の融合研究に従事することになりました。今の自分が在るのは、ALPのお陰です。本当にありがとうございました。
王 鈺博さん:5年前の冬、今と同じ、この場所で私はALPの一員として新しい一歩を踏み出しました。この5年間、様々イベントに参加しました。異分野ラボビジット、国際シンポジウムの参加、企業見学、セルフプロモーションやアウトリーチの実践、研究論理セミナーなどです。それらを通して専門力、俯瞰力、フロンティア開拓力、国際的実践力、及び内省的知力が身につきました。いつも親身にご指導、ご支援くださった先生たち、職員の皆様、様々な困難を共に乗り越えてきた友人たちに改めて深く感謝致します。
林 裕貴さん:私は好奇心旺盛な性格なので、てんこ盛りのイベントやプログラムを毎回楽しみにしていました。特に、異分野ラボビジットは大きく印象に残っています。通常の研究室生活のみでは、同じ分野の研究室に留学することはあっても、異分野の研究室で長期間研修を受けることはとても難しいと思います。この経験を通して、視野を広く持つことの大切さを学びました。4月からアステラス製薬株式会社で研究員として働きます。新天地でも、ALPで学んだ非常に多くのことを存分に生かし、活躍したいと思います。
馮 馳さん:入学してすぐのM1後期に、企業セミナーに参加し企業の方々と交流する機会をいただきました。そのあと、数学の講義を受けました。専門と異なる分野でしたが、大変勉強になりました。その他、異分野ラボビジット、サマースクール、企画運営、ファシリテーション講習、企業コンソーシアム、科学技術コミュニケーションに参加しました。就活中に、質問されるのはすべて「プログラムで学んだこと」でした(笑)。これからの仕事については、少し不安もありますが、ALPで5つのスキルを身につけたので、どんな問題でも乗り越えられると思います。どうもありがとうございました。
游 震生さん:大学院に入学した頃、専門力・日本語力・社会に対する認識に欠けていた自分にとっては、ALPに参加すること自体がかなりの挑戦でした。異分野の研究室にて研究を行ったり、課題提案を企業に相談させてもらったりして、力を高めてきました。特に印象深かったのは、新型コロナウイルスという状況のなか、ほかのプログラム生と力を合わせて、学会の開催を成功させたことです。これらの困難を乗り越えることにより、自分の成長を実感しました。今後は民間企業の研究員として働くことになりますが、プログラムで学んだことを活かし、本当のグローバルリーダーに目指して頑張っていきたいと思います。
加藤 佳美さん:当初は研究との両立が不安でしたが、様々なプログラムや授業をこなしながら研究も効率的に進めることができ、結果的に効率的な時間の使い方ができるようになったと感じています。企業コンソーシアムや国際学会の運営など他学部の皆さんと議論した経験を活かし、今後も努力していきたいです。ALPの運営に関わってくださった全ての教員・スタッフの皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
熊谷 悠平さん:ALPに編入という形で参加して3年半、研究との両立において大変なことも多かったですが、振り返ってみれば充実した時間でした。私は一つのことに熱中してしまうタイプなので、ALPに参加していなかったら社会との繋がりや異分野の研究、異文化を意識することなく、自分の研究だけに目を向けて博士課程を終えていたかもしれません。専門性を持った上で、広い視野で世の中を見る重要性や楽しさに気がつかせていただき、大変感謝しています。ALPの活動で特に印象に残っているのは、企業コンソーシアムです。専門の異なる学生と協力して、社会問題の解決に向けてゼロから事業を立案し、実際に企業の方にプレゼンをするという、貴重な経験ができました。ALPで培った力をもとに柔軟に適応し、社会に貢献できるよう頑張ります。
石森浩一郎 コーディネーターからエールの式辞
修了生の皆さん、おめでとうございます。ALP教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。みなさんのこの4年間を振り返る言葉を聞いて、胸が熱くなりました。ありがとうございました。皆さんの言葉の中で印象的だったのは「異分野との交流」です。「異分野との交流」といえば、ALPの大きなイベントの一つである異分野ラボビジットがありました。研究室に配属されると、同じ関心を持った仲間と昼夜を過ごすことになりますが、それは専門性を高める上で非常に大切なことです。しかし、異なる視点や考え方と接することも重要です。これこそが「大学:University」で得られる体験ではないでしょうか。
私はUniversityの語源はUniverse =宇宙に由来すると思っていたのですが、実はそうではなさそうで「uni」は「唯一、ユニーク、一つ」、「ity」は「物、場所」を表し、中心のversは、「異なった方向」、さらにVersus(対)にも近いことから反対の方向、つまり「反転する」、といった意味があるようです。ですから、大学は、いろいろな意味で方向性の違った人たち、つまり「異分野」の人たちが一つに集合している場所ではないか…と思います。また、「vers」が意味するように、二つの相反するような考え方を受け入れる人材を育てる場所でもあります。つまりUniversityは、その本来の意味からも「異分野交流の場」であり、「異分野を理解する人を育てる場」だと思います。
みなさんはALPで異分野の面白さ、違った考え方を持っている人と接して生まれる発見を、五感を通して体験したはずで、まさに本来の意味での「University」を実感したことになります。逆転の発想という言葉も何度も聞いてきたと思いますが、そのような発想は実際に異分野の人と話をし、共に問題を解決するような体験により生まれてくるものです。ALPで学んだことを力として新しい社会で人生を切り拓いてください。