2024年3月7日(木)、北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)6期生の岡紗雪さん、冨田永希さんの修了式が、理学部大会議室にて執り行われました。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための博士課程大学院教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての補助期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。修了証書授与のあと、岡さんと冨田さんがこれまでの活動を振り返って、挨拶を述べ会場から大きな拍手が送られました。続いて、石森浩一郎理学研究院教授(プログラムコーディネーター・副学長)がはなむけの言葉を贈りました。
岡紗雪さん(環境科学院)の挨拶
研究者になりたいという夢を持って北大大学院に入学しましたが、新しい研究室での生活環境、金銭面の不安などがありました。そのような中、リーディングプログラムを知り、何か方向性を見出したい思いで応募しました。
「異分野ラボビジット」で経験した、異分野への着眼点や他研究室の先生の助言は、今の私の意識の形成には欠かせないものです。企業研究者ばかりではなく、アカデミアとしての研究者も私の目標になりました。最後に、今の私のポジションをつくってくれた、ALP、指導してくださった大学院と八木一三研究室のみなさまに感謝いたします。
冨田永希さん(生命科学院)の挨拶
この5年間は、研究とALPの活動との両立が大変な時期もありましたが、様々なことを学び、大きく成長できたと実感しております。特に「異分野ラボビジット」で訪問した計算化学の研究室での経験を活かして、論文の執筆にまでつなげることができました。また、海外共同研究でニューヨークに留学することができ、様々な経験をすることができました。ALPで学び、良かったと心から感じております。
4月からは製薬会社の研究職として働きます。ALPでの様々な経験を活かし、新薬の創出で社会に貢献し、支えていただいた方々に恩返しをしたいです。
石森浩一郎コーディネーターの挨拶「Society 5.0を生きる博士課程修了者の使命とは」
岡さん、冨田さん、ALP修了おめでとうございます。この5年間、コロナの最中にあって、大変だったと思います。それを乗り越えてこの日を迎えられたことに、教職員を代表してお祝い申しあげます。
最近、世界中で話題になっているのがAIです。例えば、我々の専門分野でよく用いられるタンパク質の構造を予測する「AlphaFold2」は、そのデータベースが学術論文に基づくので、信頼できる回答を得ることができます。一方で、一般的な生成AIの回答は、サイバー空間にある信頼できるかどうか分からない情報を元に答えを出してくるので、真実かどうか分かりません。ただ、世の中の人が、そのような情報を使っていることは事実で、世の中を見渡すために使うのであれば、十分参考になると思います。
最近、日本の経済や世界的な地位が落ちてきていると言われています。そこで生成AIに「なぜでしょう」と聞いてみたところ、4つの答えを出してきました。「経済成長の鈍化」「円安」「産業構造の変化」、どれもその通りだと思います。4つ目は何だと思いますか? 「博士課程学生の進学数の減少」でした。そのAIは、「国際競争力において、博士課程人材は非常に重要である。それが最近減ってきているので、日本の世界的な地位が落ちてきている」と指摘しているのです。
もう一つ紹介します。これからお二人が活躍するのは、Society 5.0の社会です。サイバー空間と実社会が融合した豊かな社会と定義されています。そこで「Society 5.0の中で、博士課程修了者の使命は何でしょうか。」と問いかけてみました。AIからの返答は、「技術や研究への貢献」「社会への貢献」。アカデミアであろうと、産業界であろうと、それは当たり前です。3つ目に挙げたのは、「分野横断的な力を発揮すること」とあり、面白いなと思いました。我々は、博士課程の学生、特にALPでは、分野横断的に物事を考えることができ、異分野の人をつなげて欲しいと思っていましたが、博士課程修了者の使命として、いままでこのような文章には出会ったことはありません。しかし、サイバー空間から、そのような文言が生まれるのです。ですから、このALPで取り組んだ異分野融合は、まさに博士課程修了者に求められるものでした。さらに4つ目は「探究心と柔軟性」。これも面白いと思いませんか?AIは、博士課程学生は探究心の強い人であると言うのです。つまり物事をよく考えて、それを発揮してほしい、ということなのでしょう。もう一の「柔軟性」。一昔前までは「博士課程を出た人は、頭もカチカチになって専門しかできない」というイメージがありましたが、AIは柔軟性があるはずだと言っています。これは、この世の中からの皆さん、博士課程修了生への期待です。
そして、最後にAIは「常に学び続けることが重要です」と答えました。少なくともAIは、膨大なデータベースの中から、そのような言葉を機械学習して選んでいるわけです。探究心や柔軟性、分野横断力は、このALPでまさに深めてきたことであり、それはAIがサイバー空間から探しだした広く世の中の人々がもつ博士課程修了者への期待でもあります。今後もこのような社会の期待に応えるため、AIが指摘するように学び続け、Society 5.0の実現を目指して、それぞれの分野で活躍することを期待しています。