2024年新春、北海道大学が打ち上げる半導体カンファレンス。そのプロローグとして有識者を招いたトークイベントが2024年1月16日に理学部大講堂で開催されました。「21世紀の石油」とも言われる半導体の現状や可能性、そこで求められるこれからの人材像とは? 3部構成で展開した当日の様子をレポートします。
Society 5.0 を生きる皆にとって半導体問題は自分事である
3部構成の本企画は冒頭、北海道大学石森浩一郎副学長の「Society 5.0 を生きる人にとって半導体の問題というのは全ての問題である」というメッセージから始まりました。
2022年8月に設立した半導体企業Rapidus社が次世代半導体工場IIM(イーム)を北海道千歳市に建設することで「これから社会は、北海道は、そして私たちはどう変わっていくのでしょうか。この問いかけを自分事として考え、胸が躍るような体験に繋げてほしい」と会場に語りかけました。
続いて『2030半導体の地政学』の著者であり、半導体をめぐる国際情勢を取材してきた太田泰彦氏(日本経済新聞社/北大理学部卒業)によるキートークが始まりました。
半導体の視点で世界情勢を見つめる太田氏は、はじめに現在ウクライナ・ロシアで起きている戦争に着目。かつては原子力空母に象徴されるような「大きい・重い・高い・大人数」型の戦争が、現代はドローンを使う「小さい」「軽い」「安い」「少人数」型の戦争に変わり、そのドローン戦争を実現している中核的な技術の一つにも、実は半導体が使われていることを指摘します。
国際水平分業の中、世界が依存する台湾TSMCと米中関係
今やあらゆる産業を支えている半導体。3、4年前から続く半導体不足でいかに「世の中が半導体だらけ」か実感する中、太田氏は2021年にバイデン米大統領が半導体強化を表明したときに引用したマザーグースの一篇 “For want of a nail” を紹介しました。
「この寓話は “釘がないので 蹄鉄が打てない” から始まり、“戦いが出来ないので 国が滅びた……すべては蹄鉄の 釘がなかったせい” で終わります。つまり “釘” は半導体であり、バイデン大統領は暗に “半導体産業が弱いとアメリカは滅びてしまう” と非常に強い危機感を表明しているのです」
半導体産業は現在、国際水平分業が進んでおり、Apple等が「設計」を、TSMC等が製造の「前工程」を、日月光投資控股(ASE)等が「後工程」を分業しています。
その中でも太田氏は、10 nm(10ナノメートル)以下の微細加工を得意とする台湾・新竹のTSMCをめぐる米中の緊張関係と2024年1月に頼清徳氏が選出された台湾総統選挙の影響など、「半導体の島」となった台湾に対する中国の脅威、それを阻止しようとするアメリカや西側諸国の思惑をわかりやすく解説しました。
「何のためにどう使うか」から考える新半導体産業のメンバーに
2024年2月、TSMCは日本初の拠点となる第1工場を九州・熊本県に開所しました。奇しくも日本の北と南で展開される半導体産業の台頭は並べて語られがちですが、ここで太田氏は「両者は似て非なるものではないか」と語ります。
「TSMCは他社が考えた設計通りに半導体をたくさん作ることを得意とする一方で、Rapidusは非常に高度な半導体に取り組もうとしているため、大学などの研究開発に近い感覚なのではないかと推測しています。私が思うに、半導体チップというハードウェアは、何にどう使うかの目的をアプリケーションに落とし込んで化体したものです」
「これからの半導体産業も設計や製造単体で語るのではなく、何のためにどう使うかを考えるところも含めて半導体産業だと思います。そこで求められてくるのが、これまで半導体産業の構成メンバーだと思われていなかった学問領域あるいは産業領域の人たちの視点です。今後はそういう人たちを巻き込みながら、北海道を中心とした大きなエコシステムが出来上がるのではないかと期待しています」と語り、約30分のキートークを終えました。
Part 1以上
主催:北海道大学大学院教育推進機構・Ph.Discover
共催:北海道・北海道大学半導体拠点形成推進本部・北海道大学大学院理学研究院・北海道大学創成研究機構データ駆動型融合研究創発拠点
協力:えぞ財団