2020年2月16日(日)に開催したPh.Discoverキックオフイベントで語られた内容を3回に渡って動画とレポートで紹介します。当日は大学生、大学院生、大学教職員、市民のみなさま約50名が参加しました。多様な11名のスピーカーからの話題提供を中心に、来場者からの質問回答を交えながら2時間半に渡る熱いディスカッションが行われました。全編動画(3部構成:約30分×3)をYouTubeに公開しましたので、ぜひライブ感もお楽しみください。
イベントで使用したハッシュタグ #ph_discover_kickoff で感想やご意見をツイートしていただければ幸いです。今後の活動の参考にさせていただきます。
スピーカー(順不同/敬称略)
- 人見 尊志氏(日本オラクル株式会社 ソリューションエンジニアリング本部長)
- 倉 千晴氏(株式会社神戸製鋼所/Ph.D.)
- 高橋 陸氏(NTT物性科学基礎研究所/Ph.D.)
- 伊勢田 一也氏(旭化成株式会社人事部/Ph.D.)
- 吉原 拓也(北海道大学人材育成本部特任教授)
- 中垣 俊之(北海道大学教授/電子科学研所 所長)
- 正宗 淳(北海道大学大学院理学研究院教授)
- 石森 浩一郎(北海道大学大学院理学研究院教授/Ph.Discoverプロジェクト代表)
進 行
- 丸 幸弘氏(株式会社リバネスグループ代表取締役CEO/Ph.D.)
- 加藤 真樹(北海道大学主任URA/Ph.D.)
- 大津 珠子(北海道大学大学院理学研究院准教授/Ph.Discoverプロジェクト担当)
※経歴等は2020年2月16日現在
来場者からの質問「博士課程進学を親に反対された経験は?」
伊勢田:僕の個人的な経験を紹介しますが、少なくとも学費に関しては学部1年の時から全部自分で払っていたので、反対される筋合いはないと思っていました。多くの親御さんはドクターの価値を理解できないかもしれません。僕の場合は、親を論破するとかじゃなくて、行くことに決めたからって言うだけでした。
石森: 安定志向とかありましたけど、何がこれから先、安定かなんて分からないので、かえって僕はPh.D.を持っている方が安定するかもしれない、と思ってます。Ph.D.は世界中どこでも通じるライセンスのようなものです。Ph.D.を持っている人の方が生涯賃金は高くなるケースもあります。在学中に支払うのも多いかもしれないけれど、それ以上に機会費用も含めて戻ってくるものが多いっていうのは、最近の統計から明らかです。
博士課程の支援制度
石森: 日本は給付型奨学金が圧倒的に少ない。ヨーロッパは学費が無料に近いし、アメリカは学費が高いけれど奨学金制度がしっかりしています。卓越大学院が採択されたら、企業の方々から支援を受けようという話も聞きます。でも日本の企業の場合はコンプライアンスがあって、他の企業に行くかもしれない人に奨学金を出せないっていう考え方が多いようです。株主に説明がつかないから難しいと。また、大学は奨学金返済の免除とか授業料免除という制度が充実してますが、あまり知られていません。もっと政策的にきちんとやれば、支援の仕組みは広がると思います。
人見: オラクルは、研究者に研究で使う環境整備をスタートアップしたい人たちに対して、ソフトウェアとかハードウェア、クラウドなどを応募型で提供する支援活動をやっています。今回のPh.Discoverのホームページを動かしているクラウド環境も、石森さんから応募頂いて、提供しています。支援の形って多様で、他にもあるのだろうと思います。
先輩からのメッセージ、ビジョン
倉: リーディングだけではなくて、博士課程時代にいろんな事を考えながら過ごしたことも、会社に入ってから生かされているなと思っています。学生の時に一番懸念した「博士って進学すると就職が厳しい」っていうのは的外れで、今はやっぱり博士が望まれているというのは間違いないなと思っています。
私のいる研究所ですと、半数がドクターを持っています。その中でも学部生から進学してドクターを取った方は4分の1程度なので、社会人でドクターを取った方が大半です。会社としてもより深く考えられる人材がほしいという事で、博士の進学をかなり推奨しています。ただ、社会人ドクターは仕事と両立しながら研究するので大変そうです。ですから学生の時にドクターに進んだのは良かったなと思っています。興味があったり研究が好きだったら、ぜひ進学して活躍してほしいと思っています。
高橋: 1つ伝えたいメッセージは、早く行動すると後に余裕ができること。それが自分の中では上手くいってきた方法なので、試してほしいなと思っています。具体的にはマスターの時から企業の奨学金とか多数応募して、実際に貰うことができました。早め早めに動くと自分の選択肢、可能性が広がるので、迷っているんだったら早めに動いて、将来の自分のためにゆとりの時間を作るという働きかけをやってみると良いと思います。
ドクターに行って非常に有り難かったことがあります。自分でオーガナイズして海外に行くって、一人でやろうとすると難しいはずです。でも、支援するプログラムがあったり、国際学会の旅費を支援する制度があれば、ぜひ挑戦することをおすすめします。それはかなり得難い経験になると思っています。僕はドクターの時が無茶できる最後かな、くらいの気持ちでガーっと行きました。すると次のステップが無茶じゃなくなっています。若いうちにって僕が言うと変なんですけど(笑)どんどん無茶してください。
伊勢田: ドクターに行くか、企業でお金貰いながら働くか、っていう選択肢が出た時に、自分のテンションが上がる方向というか、ワクワクする道をまずは選んでほしいです。経済的な不安はもちろんあります。統計から見てもPh.D.を取った人のほうが給料は実は良いんじゃないかと思います。何かをやり抜いたことが自信につながり、いろんなことにチャレンジするハードルが下がることを感じているので、結果的にドクターに行って良かったなと思っています。
日本にPh.D.は何人必要か
石森: それぞれの大学が持っている定員に対して足らないと思います。少なくとも日本は科学技術創造立国です。資源がいっぱい有って、地面を掘ったらいろんな物が出てくる国だったら良いかもしれませんが、そういう国ではないので、人で勝負するしかない訳です。そうなった時に諸外国と同じレベルのドクター数ではスタートラインにも立てない訳ですから、現在は圧倒的に少ない状態です。そういう意味で日本の50年、100年先を考えた時に、極端な話かもしれませんが、今の倍はPh.D.がいても良いんじゃないかと思います。
吉原: 世の中に送り出す博士を倍にするなら、希望者は3倍から4倍にするというのが大事かなと思います。「いやぁーやっぱり博士になりたかったけどなれなかったな」って人が出てくる位がちょうどいいのかも。
加藤: 文科省の資料の中に企業の研究者に占める博士号取得者の割合が国別で比較しているのがあって、この表では日本が一番低くて4.4%で、その倍ぐらいの所というのは、アメリカ10%、ロシアも10%、フランスとノルウェーは14%以上ですね。
クロージング
石森: 今まで我々が思っている事とほぼ同じようなラインでお話いただけて、我々が進めようと考えていた方向は間違っていなかったと感じました。ただ残念ながら、このような話題が広がっていかないことが一番の問題のように思います。Ph.D.を持っている人の将来はバラ色になるかもしれません。それを我々がきちんと言わなきゃいけない。日本の50年100年先を考えた時に、やっぱりPh.D.を2倍にするという以外、日本が生き延びる道はないぐらいの感覚を持っています。
丸: 一つ間違えちゃいけないのは、博士を取ることが目的では無いという事ですね。世界を変えたいとか世の中にインパクトを与えたいとか、こんな研究をしてみたいとか、やっぱり個人個人のやりたいwill(意志)の部分を前に出していくことが重要であって、博士取得っていうのは一つの通過点です。それを経て活躍していくんだという意志が最も重要なんじゃないかなと、今日の議論を通じて感じました。みなさん、今日は貴重な機会をいただきありがとうございました。またこのような機会を設けて、議論を上書きしていきましょう。
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