Ph. Dialogue「博士人材セミナー」は、Ph. Discover連携企業からゲストを迎え「博士課程修了者が企業でどのように活躍しているのか」「企業は博士人材に何を求めているのか」について話していただき、後半はゲストと学生が対話を通して交流する企画です。8回目は阿部圭馬さん、後藤一法さん、前田哲宏さん(株式会社アミノアップ)をお迎えしました。
株式会社アミノアップ:
北海道札幌市に拠点をおく機能性食品原料メーカー。1977年に北海道飼料研究所(個人営業)として創業。1981年に植物活力資材「アミノアップ」を開発し、1984年に株式会社アミノアップ化学を設立。2018年に株式会社アミノアップに改名し現在に至る。グローバルな研究ネットワークで、天然素材の有効成分の探索、機能性の作用機序解明などの研究に取り組み、コンスタントに新製品を開発し続けている。
株式会社アミノアップの阿部と申します。弊社は、天然物由来の生理活性物質の抽出・製造、および機能性食品の開発製造を行っています。
健康食品事業で人の健康を、アグリ事業で植物の健康を
弊社の事業には二つの柱があります。一つ目の柱は、自然の恵みを活かした健康食品事業です。最初に作った健康食品はキノコの担子菌の培養抽出物「AHCC®」で、1989年に免疫賦活作用があることを見出し、製品化しました。1991年には、抗炎症作用や抗アレルギー作用を見出したシソの抽出エキス「シソエキス」を発売しました。2006年に開発したライチ由来低分子化ポリフェノール「Oligonol®」は、ライチに多く含まれているポリフェノールを、弊社の特許技術で低分子化(人体へ十分に吸収できるよう小さい分子量にする技術)し、製品化したものです。機能としては、抗酸化作用や抗疲労作用が見つかりました。
これらの製品には「北海道食品機能性表示制度ヘルシーDo」や「機能性表示食品」というマークがついています。「ヘルシーDo」は北海道による認定制度で、「健康でいられる体づくりに関する科学的な研究が行われた機能性素材を含む食品」として認められた証です。「機能性表示食品」は、事業者が消費者庁に食品の安全性や機能性に関する科学的根拠を届けて出ることで機能性を表示できるようになった食品の証です。とはいっても、みなさんは例にあげた製品を店頭で見たことがないと思います。なぜなら、弊社は原料メーカーであり、他の食品メーカーの製品に含まれる形で皆さんの手元に届けられているからです。例えば、「Oligonol®」はコンビニのセイコーマートで売られているドリンクに入っています。
二つ目の柱はアグリ事業で、「Dr.アミノアップ」という植物活力資材を開発しています。将来、世界的に人口が増え続けると、いずれ食糧需給がひっ迫すると言われています。そこで、人の健康に役立つ製品を製造する技術を農作物の生長に役立てることで、持続可能な食糧支援をしたいと考えています。
学会や論文での発表にも力を入れる研究指向型企業
私たちは、健康食品事業とアグリ事業を二本柱とし、おおよそ5~10年に1つのペースで新製品を開発してきました。そして、継続的な新製品の開発と並行して、国際学会や論文での研究発表も積極的に行ってきました。科学的エビデンスを重視する弊社にとって、社外で発表することは、「第三者の目からデータを確認する」という意味で大切な研究開発プロセスです。さらに、共同研究にも積極的で、協働先機関の数はこれまで国内外合わせて100を超えています。
様々な部署で活躍する博士人材
ここからは、社内で活躍している博士人材の声と共に具体的な仕事を紹介します。弊社は正社員と役員合わせて80名のうち博士号取得者は11名、約10%を占めています。11名の内、5名が研究部、3名が営業部、2名が品質保証室、1名が工場にいます。
初めに営業部ですが、次のように5つの担当にわかれています。
- 論文投稿、学会発表、共同研究の管理をする学術担当
- 新規お客様、新規ビジネスパートナーを開拓する営業担当
- 出荷や輸出、在庫を管理するロジスティックス担当
- 社内外向けの情報発信をする広報担当
- 特許の出願や管理をする知財担当
学術担当で働く博士の人と、知財担当で働く博士の人に話を聞くと、二人とも「博士課程で培った論理的な考え方や調査能力が役に立っている」とのことでした。また、知財担当の人は、「社外で講演する際に、博士課程で得たプレゼンテーション能力も役立っている」と言っております。
次に研究部ですが、こちらは次のように大きく2つのグループにわかれています。
- 実際に成分の抽出・精製・濃縮を行い、製品開発を行う化学系グループ
- 細胞や動物からヒトレベルで機能性を評価する生物系グループ
彼らは、「博士課程で得た問題を定める力、それを解決する力が、今も仕事に活きている」と話しています。
次に紹介するのは品質保証室で、品質保証体制の維持や改善に努める部署です。また、お客様から情報提示を求められた時に文書を作成するのもこの部署です。ここで働いている農学博士は、もともとは違う専門分野だったそうですが、「博士研究の過程で身につけた課題を解決する力は今の仕事にも応用できている」と言っています。
いかがでしたでしょうか?弊社の博士号取得者の声にあった通り、博士課程で培った能力は弊社のどの仕事でも活かすことができます。ですので、我々のような道内の企業をみなさんの活躍の場とする選択肢もぜひ考えてみてください。
コミュニケーションタイム
アカデミアと企業の間で流動的に人が動く時代へ
Q:御社の博士人材は新卒採用でしょうか?中途採用で入る人もいるのでしょうか?
後藤:もちろん新卒もいますが、多くは中途採用ですね。他社を経験されて即戦力として入社される人もいれば、ポスドク経験後に入社される人もいます。
Q:実際に中途採用で入られた人はどのような理由や経緯で転職を決断されましたか?
阿部:ポスドクはシビアな職業で、来年から給料が出ないということが起こり得ます。当然次の職を探さなければいけません。私の場合、化学関連の研究を続けたい気持ちに加えて、北海道にいる両親の年齢を考えると道内に住みたい気持ちがあり、北海道で化学関連の研究ができる働き口を探しました。博士は専門的な知識と科学的な考え方が武器で、当時は大学や研究所という職場にこだわりがあったのですが、どこに行っても自分の能力を活かせるはずだと、職場に対する考え方を切り替えたのです。
後藤:私はポスドクを5年弱続けた後、アミノアップに入りました。入社する前から民間企業で活躍している研究者を見ていたので、アカデミア以外にも行ってみたいと思っていました。
Q:逆にアミノアップでの実績をもとにアカデミアに行く人もいますか?
後藤:はい、今は大学で薬学関連の研究をしている人がいます。アカデミアに戻る・戻らないは、自分次第だと思います。アカデミアは自らどんどん論文を書いて成果を出していく世界です。そのような環境を求める方は転職を考えていいと思います。
後藤:大学側は企業で経験を積んでいて、特に人脈を持っている人材を欲していますし、逆に企業側は大学でスペシャリストとして活躍している人を欲しています。これからは、大学と企業の間を流動的に行き来する人がより増えてくるのではないでしょうか。
特許取得後に学会や論文で発表、それにより入社後に博士号を取得する人も
Q:研究成果を学会や論文で発表する際に、特許の関係が問題になると思うのですが、御社では発表までにどのような手続きを踏むのでしょうか?
阿部:弊社の商品は、特許を取得した後に社外で発表することになります。どの段階で発表するかは社内で相談して判断しています。
Q:社外での発表はどの部署が行うのでしょうか?
阿部:既存製品については営業部の学術担当が主に行います。開発中で製品化されていないものは研究部が発表します。
Q:入社後に行った研究に関する論文で博士号を取得することも?
後藤:特許取得が優先されるので、論文を発表するのはアカデミアよりも時間がかかりますが、なるべく博士号を取得していない人にも論文を書いて発表してもらっています。中には、会社での研究の内容を元に博士論文をまとめて、出身の大学や研究室で論文博士号を取る人もいます。ただし、企業ですから論文発表だけを目的に進めていくわけではありません。
お互いのテーマを共有しながら研究を進め、開発の最後はみんなで取り組む
Q:自分が担当するテーマはどのようにして決まるのでしょうか?
後藤:開発の大きな方向性については経営方針により領域が決められますが、その領域の中でプロジェクトをどう立てるかは個人の研究者に任せられています。例えばアンチエイジングの領域に新素材を出したいという方向性が決まったとします。その領域でどんな効果を狙った製品を出すかは、研究者それぞれが自発的に考えてプロジェクトを立てていきます。
Q:常時どれくらいのプロジェクトが並行で走っていて、1つのプロジェクトを何人くらいで回していますか?
後藤:研究開発を担っている実働人数は8人で、常時5~8つほどのプロジェクトが走っています。担当するテーマ数は、開発段階の初期だと1人で1~2テーマ、開発段階が進むと、検討事項があらゆる分野に広がるので、2~3人で1つのテーマを、場合によっては全員で取り組むこともあります。
Q:開発段階の最後は全員で取り組むこともあるとのことですが、自分が担当していなかったテーマの進捗はどのように情報共有していますか?
後藤:毎月、研究部全体のミーティングでそれぞれのデータや進捗を共有していますので、開発の最終段階で突然よく知らないテーマを手伝うということはありません。研究部全体で11名の組織なので、お互いのテーマがどこまで進んでいるかは常に共有できています。農業が盛んな北海道の利点を活かし、植物、特に農産物を対象とした研究を進め、これからも付加価値の高い機能性食品を生み出して、北海道ブランドを応援していきます。そして、食糧危機というグローバルな課題にも貢献していきたいと考えています。
開 催:2021年3月3日
主 催:Ph. Discover
共 催:北海道大学大学院理学研究院/北海道大学数理・データサイエンス教育研究センター(データ関連人材育成プログラム)/北海道大学博士課程物質科学リーディングプログラム