Ph. Dialogue「博士人材セミナー」は、Ph. Discover連携企業からゲストを迎え「博士課程修了者が企業でどのように活躍しているのか」「企業は博士人材に何を求めているのか」についてお話ししてもらい、後半はゲストと学生が対話を通して交流する企画です。第10回目は小川泰史さん、竹ノ内雄太さん、望月周さん(日東電工株式会社)をお迎えしました。
※事業内容・所属部署などの記載は2022年2月取材時点の内容です。
日東電工株式会社
1918年、絶縁材料の国産化を目指して東京・大崎で創業。グループの経営理念は「新しい発想でお客様の価値創造に貢献します」。粘着技術や塗工技術を基盤にエレクトロニクス業界や自動車、住宅、インフラ、環境、医療関連などの領域に進出し、グローバルに事業を展開する。
Innovationに挑む高機能材料メーカー
日東電工株式会社(Nitto)のエリア人財マネジメント部リクルーティンググループの小川です。本日は皆さんの先輩にあたる北海道大学大学院総合化学院有機元素化学研究室出身の竹ノ内雄太さんも同席しています。後ほど登場してもらいます。
創立は1918年。化学系の材料メーカーです。スローガンは「Innovation for Customers」。「あらゆるところで生活を支える存在」を目指して事業活動をしています。B to Bのメーカーですので皆さんが当社の名前を聞く機会はあまりないかと思いますが、当社の代表的なB to C商品、粘着式クリーナー「コロコロ」はご存知でしょうか。「コロコロ」は弊グループ企業の商標登録になっています。主な事業は下記の5つ。高分子化学をコアに多岐に渡って展開しています。
全社員公募型「Nitto Innovation Challenge」
当社のR&Dは全社技術部門と事業部門開発に分かれています。前者は3〜5年先といった中長期的な時間軸で製品開発の種を研究し育てていく部門で、後者はより工場に近いところでお客様と連携しながらスピーディな研究開発を進めています。
事業化の流れは下記の通りです。0から1を生み出す「技術くるま座」とは各部門の幹部たちが文字通り、畳が敷いてある部屋で「くるま座」になってアイディアを出し合う空間です。一方、「Nitto Innovation Challenge」は、全社員公募型の研究テーマ創出の場です。新入社員でも「こんなことをやりたい!」というアイディアを出すことができ、選出されると最後は社長を含めた役員の前でプレゼンします。年間1000件近くの応募があります。
このような流れで、「粘着技術」「塗工技術」「高分子機能制御技術」「高分子分析・評価技術」といったコアテクノロジーをベースに展開してきましたが、今後は「次世代モビリティ」「情報インターフェース」「ヒューマンライフ」という3つの重点領域を強化し、新たな事業の創出に取り組んでいこうとしています。
海外に営業拠点だけでなく、研究開発の拠点があるところも当社の特徴の一つです。希望者には海外赴任のチャンスが広がっています。
「緑帽システム」「さん付け文化」で風通し良く
先ほどの「Nitto Innovation Challenge」が示すように、当社は若手でもチャレンジできる、風通しの良い職場です。新入社員が着用する「緑帽システム」は、いわゆる“若葉マーク”のようなもの。部署を問わず皆が新人の成長をサポートする環境が用意されています。
「さん」付け文化は、私も気に入っている文化の一つで、新人も社長も皆、役職ではなく「〜さん」と呼び合っています。ちなみに私が入社したとき、食堂で当社社長の髙﨑さんがトレイを持って並んでいるのを見て衝撃を受けました(笑)。社長も社員と一緒に並ぶ。この会社をよく表している光景だと思います。
ここから先は皆さんの先輩にあたる竹ノ内さんに登場してもらいます。
「川中」の幅広さを実感、食わず嫌いのススメ
博士課程の研究は「有機ホウ素化合物の触媒的不斉合成」でした。高分子化学を核とする当社ではマイノリティーですが、新しいことをやりたいと思い入社しました。自分の就活時は、正直なところ、企業ごとの違いもわからず、仕事のイメージも、どんな人と働くことになるかもわからない状態でした。2017年に入社し、社歴5年目の今言えることは、企業の特色は「川上」「川中」「川下」で異なるのではないかということです。当社の場合は「川中」だからこそ事業領域が広く、「川上」と「川下」の変化に柔軟に対応して現在の立ち位置を作ってきたメーカーならではの“Nittoらしさ”があるように感じます。
入社の希望条件はシンプルに「研究をしたい」「有機合成以外もやりたい」「風通しのいい環境で働きたい」の3つに絞り込みました。実を言うとNittoの社名も「コロコロ」のことも知りませんでしたが、希望条件の3つを満たしていたのが当社でした。
現在は研究開発本部のサステナブル技術研究センター、通称「サス研」に所属しています。環境に貢献できる技術開発に関われるところが、大きなモチベーションになっています。
学生時代は、コアタイムが12時間の研究漬け。それが今の研究生活の土台になっていますが、自分の専門以外のことにも興味を持つという視点は、皆さんにもぜひ学生のうちから訓練して身につけてほしいと思います。会社に入るとその機会が増え、異分野のテーマを自分事として考え、それをまた自分の分野に活かすことが非常に大切になってきます。また、学生時代は研究スタイルも“正面突破”が多かったですが、社会人になってからはいろいろなアプローチを身につけることができました。研究分野も方法も“食わず嫌いをしないこと”が大事だと感じています。
コミュニケーションタイム
経験値より課題解決の姿勢を重視
Q:企業かアカデミアかで進路を迷っています。研究生活に違いはありますか?
竹ノ内:企業の場合、営利目的を視野に入れて、いろいろな決まり事がある中で自分たちの強みを活かして形にしていくという側面はあると思いますが、研究開発の本質は企業もアカデミアも同じ。どうやったら目的を達成できるかを考える、ということに変わりはありません。
Q:専門外のことをやる、というイメージがわきづらいのですが…。
竹ノ内:学ぶプロセスはどの分野でも同じだと思います。自分が知らないことをゼロからやる時にたどるプロセスは、たとえ分野が変わってもそのまま活きてきます。
小川:私からも補足しますと、博士課程の5年間で取り組んだ研究分野と、会社に入ってから覚えた新しい分野を30年やっていたら、どちらを自分の専門分野と呼べるのか。そこをどう考えるかで“専門”に対する考え方が変わってくるかもしれないですね。私も研究開発をしていた時は出身の研究分野とは異なる光学に携わり、レーザを使った微細加工で社会を変えていくような産業に関われたことがとても新鮮でした。
その分野の経験値よりも、課題設定にどう取り組むか。企業ではそこが重要視されます。
有利不利よりも自分がどうしたいか
Q:修士と博士、どちらが就職に有利でしょうか?仕事内容に違いはありますか?
小川:当社では修士人材と博士人材の扱いに差は一切ありません。何が有利で何が不利か、悩むお気持ちはとてもよくわかりますが、肝心なのは本人がどうしたいか。そこに尽きると思います。ただ、海外企業とのやりとりでは、やはり博士号は世界共通のライセンスであり、大きな信用につながります。
竹ノ内:私も「どちらかが不利、または有利」と感じたことはありません。博士人材はちょっと個性的な人が多いかなと思うくらいでしょうか(笑)。
ただ、研究に対する自主性や課題解決力の身に付き方は、修士課程と博士課程で差があるように感じます。自分の場合、博士課程で過ごした濃密な3年間は何ものにも代えがたいものでした。それを選ぶかどうかは自分次第だと思います。
Q:採用は事業ごとに行われますか、それとも採用後に配属が決まるのでしょうか?
小川:内定時点では配属は決定していません。10月の内定式前後頃から、全員と個別面談を行い、ご本人の希望や部署のニーズを総合的に判断して配属を決定します。4月に入社いただく場合、約1ヶ月前の3月上旬に皆さまに通知させていただきます。
面白い先輩たちを巻き込んで
Q:公募イベントの「Nitto Innovation Challenge」は一人でも応募できますか?
小川:一人でもチームでも応募可能です。応募数が多いため、いくつかの審査を経て絞り込んだあとは、メンターやサポーターたちと一緒に企画をブラッシュアップする工程に進みます。優秀なテーマはそれにふさわしい事業部が実現化を受け継いだり、応募者本人が取り組むケースもあります。1年間かけて開催される、非常に大がかりなイベントですが、始まったのは最近のこと。それまで新規事業専門の部署もありましたが、社内の声を反映して新設されました。
Q:“他社や世界に勝つ”視点や売上に結びつく研究開発を考えるのが難しそうです。そういった思考を鍛えるにはどうしたらいいですか?
小川:特別なトレーニングプログラムがあるわけではありませんが、当社にはそういうことが得意な面白い先輩がたくさんいます。そういう先輩を巻き込んで、一緒に考えていく時間が非常に有効です。自分の成長になりますし、その経験を糧にして自分が後輩たちを育てる立場になる。そうやって研究者としてステップを上がっていく流れが、自然に出来ていきます。
もう一つ大切なことは、常に社会のニーズにアンテナを張ることです。お客様との信頼関係を通して新鮮な情報を先取りして業界を牽引していく。そうしたニッチトップ戦略も当社が得意とするところです。
今、皆さんは一日一日ご自分の将来を作っている段階だと思います。「社会に出たら新しいことを生み出す仕事に就きたい」という方は、ぜひ選択肢の一つにNittoを加えていただきたいと思います。皆さんの活躍に期待しています。
週4のテニスで気持ちをスイッチ!
Q:竹ノ内さんにワークライフバランスについてお聞きします。今、ご自分の趣味にどれくらい時間を当てていますか?
竹ノ内:私の場合、先ほどご説明したように学生時代は研究漬けだったので、むしろNittoに入ってからワークライフバランスが劇的に改善しました。残業がある日もありますが、今は会社が終わった後と休日とを合わせて、多い時で週に4回ほどテニスをしています。テニスをしているときは仕事のことは忘れて集中しているので、オン・オフの切り替えができますし、体も疲れるのでぐっすり眠れます。大学では研究だけに没頭していた時間を今は趣味に割くことができて、毎日がとても充実しています。
開 催:2022年2月10日
主 催:Ph. Discover
共 催:北海道大学大学院理学研究院/北海道大学数理・データサイエンス教育研究センター(データ関連人材育成プログラム)/北海道大学博士課程物質科学リーディングプログラム