北海道大学大学院 生命科学院では、キャリアパス教育の一環として、学部3年生を対象にした学科イベント「DCは語る」(DC:Doctoral Course=博士課程)を定期的に開催しています。博士課程修了者が自身の経験を語ることで、現役生に進路の一つとして博士課程進学を考えてもらうことが目的です。2022年6月6日は、遠友ファーマ株式会社の横井 康広(よこい やすひろ)さんが話しました。
横井さんは、生まれも育ちも札幌という生粋の札幌っ子です。2015年に理学部生物科学科(高分子機能学)を卒業した後、生命科学院に進学し、先端生体制御科学研究室(西村研究室)に所属していました。2020年に博士の学位を取得して、現在は遠友ファーマ株式会社(北海道札幌市)に勤務しています。
分からないことが分かる楽しさ
学生時代は、疾患に関連する糖タンパク質について研究していました。糖タンパク質は、タンパク質に糖鎖がついたもの、糖鎖は、鎖のように糖がいくつもつながったものです。糖鎖は細胞の表面を覆っていて、細胞同士のコミュニケーションに欠かせない分子です。いろいろな疾患の診断や治療に有効ですが、糖鎖の構造は多様性があるために調べるのはとても難しいです。解明されていないことが多いので、それを自分で少しずつ明らかにしていくことに手応えを感じ、研究が楽しくなっていきました。
研究を続けたい
西村研究室を選んだのは、化学実験が魅力的だったからです。「糖鎖ってよく分からない」と感じていましたが、よく分からない化合物を扱うからこそ、新しい発見も多いのではないかという期待もありました。先輩たちが楽しそうにしていることも、研究室を選んだ理由の一つです。みなさんも、ぜひ先生や先輩からいろいろな話を聞いてみてください。研究室を選ぶ時は、研究内容だけでなく、人間関係や雰囲気なども大事にするといいです。
研究が楽しくて、もっと続けたいと思い、修士課程に進学しました。その後は就職しようと考え、修士1年の時に就職活動をしました。就職活動中に、いろいろな企業の研究者と話す中で、博士の学位の必要性を感じたので、博士課程への進学を決めました。博士課程修了後は、企業の研究職に就きたいと思う一方で、自分の興味がある研究を続けたいとも考えていました。ちょうどその頃、西村先生の研究成果を元に、大学発ベンチャーの遠友ファーマ株式会社が設立されたのです。ここなら自由な研究環境で、主体的に研究を進められそうだと感じ、入社することにしました。
狙った場所に薬を届ける
現在は、ナノ粒子を使った薬物送達システム、DDS(Drug Delivery System)の研究開発をしています。一般的な薬は血液と一緒に全身を巡るので、投与した量の千分の一から一万分の一だけが患部に届きます。薬が目的以外の場所にも届くことで、副作用が起こることもあります。
理想は、投与した薬が「必要な時、必要な量、必要な部位に」届けられることです。そのための技術がDDSです。薬剤をナノ粒子やカプセルに封入し、目的の場所に届け、必要最小限の量で効果を出すしくみです。副作用を減らし、医療費を抑えることも可能です。ナノ粒子を目的の場所に到達させるためのカギとなるのが糖鎖です。これからもいろいろな糖鎖を試していくことで、薬を狙い通りに届けられるように研究を進めていきたいです。