2020年7月18日(土)に、IT企業である株式会社Donutsとオンラインワークショップ「ジョブカンの新規サービスの提案」を実施しました。根岸心さん(株式会社Donuts/共同創業者・取締役)にもご参加いただき、全国から8大学、20名の博士課程大学院生が集まり、バックオフィス業務を支援するクラウドサービス「ジョブカン」の新規サービスの提案にむけてディスカッションしました。
日 時:2020年7月18日(土)13:00~18:00
方 法:Zoomミーティング
講 師:根岸 心さん(株式会社Donuts/共同創業者・取締役)
主 催:Ph.Discover/北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム
共 催:株式会社Donuts/北海道大学大学院理学研究院
協 力:株式会社アカリク
昨年度までは東京会場に全国から大学院生が集まり起業家体験もできる、課題解決型ワークショップ「アカリク式PBL」(主催:株式会社アカリク)が実施されていました。しかし、今年は新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、初のオンラインでの実施を実験的に行いました。大学院生たちは、初めてモニター越しに顔をあわせることになり、はじめは不安を感じながらのスタートとなりました。
自由な意見交換ができる環境を大切に
はじめに、東京工業大学大学院で知能システムの研究に携わっていた根岸さんから自己紹介とDonutsの会社案内、ジョブカン事業について説明がありました。研究当時からデータサイエンス・機械学習の勉強をしていたので起業に興味を持たれていたようです。修士課程を修了し、2004年に株式会社ディー・エヌ・エーに新卒第一期生として入社しましたが、起業の夢を持ち続け、2007年には早稲田大学大学院で生物学を専攻していた西村啓成さんと共に株式会社Donutsを創業しました。現在はIT分野の4領域、SaaS(Software as a Service)事業、ゲーム事 、メディア事業、医療事業を主体としています。様々な事業を立ち上げてきましたが、都度、起業するような感覚で取り組んでいるそうです。その際に重要なのは、チームメンバーが自由な意見を出し合える環境を保つことです。そのような社風だからこそ、いざ困難に直面しても打開策が生まれる場面を何度も目にすることができたのでしょう。
今回のワークショップのテーマはSaaS事業である『ジョブカン』の新規サービスを提案するというものです。当初は勤怠管理サービスとしてスタートさせました。出勤、退勤、出張、休暇、年末調整など、いわゆるバックオフィス業務では様々な作業が発生しますが、同じ作業の繰り返しになりがちです。そこで、それらの作業を自動化し、プロダクトとしてシステムに落とし込んだのが「ジョブカン」です。さらに様々なサービスを加えることで、UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)が評価され、多くの企業に利用されるようになりました。一般的に企業・機関での意志決定には上長の承認が必要で、通常は書類に各責任者の捺印などを集めて意思決定を進めます。一方、ジョブカンではそういった手順はシステムで自動化されており、スマホでの承認も可能になっているそうです。
以上のようなサービス紹介・解説の後、根岸さんから大学院生に「ジョブカンを3C(市場:customer、競合:competitor、自社:company)に基づいて整理し、新規プロダクト、新規サービスを提案してください」というお題が示されました。
Zoom+Miroを利用した3チームによるグループワークがスタート
大学院生がA〜Bの3つのグループに分けられた後、チームワークを試されるグループワークが始まりました。オンラインだからこそ、チームが打ちとけるためにアイスブレークが重要になります。Miroの使い方に慣れるためにも、スティッキーノートに名前、趣味、目的意識(ワークショップを通して何を手に入れたいか?)を書き込み、チームごとに自己紹介をおこないました。その後、休憩を挟みながら2時間で新規事業の提案をまとめる作業を進めます。その議論の成果を以下に紹介します。
Aチーム:ジョブカンに蓄積されるデータの活用とジョブカンユーザ 同士の連携性
ジョブカンは主に企業のバックオフィスを効率化するツールであるが、勤怠管理やワークフロー管理、経理、労務、採用などの様々な分野についてのサービスを展開している。そこでそれらのバックオフィス業務から得られるデータから、業務改善の支援を考えた。個々の企業の方針を尊重し、扱いやすく加工されたデータを出力するような機能を付与し、企業がそのデータを活用するイメージである。また、ジョブカンはバックオフィス管理支援ツールとして、現在0,000社以上の導入実績を持っている。そこで業界でのジョブカンのシェアをさらに伸ばし、ジョブカンユーザー同士で使えるサービス展開を提案したい。より柔軟になっていく働き方を意識し、個人事業主を含めた企業同士の円滑な業務管理サービスである。
Bチーム:カスタマイズ可能な職種特化型の事業効率化プログラムの提供
現在のジョブカンの弱点はどの業種でも使えるようなサービスであるため、業種によっては必要ないサービスが含まれているケースがある。多様なサービスがあることは利点でもあると同時に、利用者にとっては複雑、煩雑になるおそれがある。そこで、職種特化型のサービスを用意することにより、今までよりさらに細かなニーズに応えることが出来るのではないか。さらに各社が必要とする機能をカスタマイズできるようにすることは、事業を展開する時や縮小する時にも柔軟に対応できると考えられる。
Cチーム:働き方の多様化を前提とした新しい評価軸の導入
在宅ワークが広がる中、勤怠管理の評価軸が不明瞭になることが心配されている。この問題に対して、ジョブカンがコンサルティングをしながら評価の仕組みを提示できる事業を提案したい。作るべき評価の軸、各社が保有しているデータをどのように使っていくか、評価の基準について議論をワークショップの中で展開させた。新しいシステム・プロダクトとしては納期、自己設定した目標の達成度合い、外部評価の導入を提案したい。
研究と同様に、新規性は起業においてとても重要
3チームの提案が発表され、根岸さんから各チームへの評価とアドバイスがありました。「慣れない環境でおつかれさまでした。2時間でアウトプットする作業はリアルな現場でも大変ですが、実はこのような作業の繰り返しをビジネスの世界ではいつもやっています。制約条件はつきものです。今回のワークショップを通じて、新規事業の提案が研究と似ていることに気づいていただけたのではないでしょうか。基本的な知識であったりSurvey(サーベイ)であったり、議論するための胆力、人間力が試されます。今回みなさんの発表を聞いていて良かったことは、時代の趨勢を踏まえた提案が多かったことです。Aチームはデータ活用、それはSaaSにおけるトレンドです。Bチームの業種に特化させる提案は重要なことだと考えており、それを「バーティカルSaaS」と呼んでいます。特定の業種をカスタマイズさせることは弊社も議論している最中でした。Cチームは、コロナ禍の影響もありテレワーク、リモートワークが広がっている中、実績評価の手法は課題になってきているので参考になりました。研究と同様に、新規性は起業においてとても重要です。でも、新しいものをつくって自己満足するだけではダメです。サービスを買ってくれるお客様の共感を得ることが重要になります。さらに、みなさんに助言をするなら、課題を明確にすること、つまり何が改善されるのかを具体的にしていくことを意識してください。そういった姿勢は投資家にも響きますし、ジョブ型評価は各社異なりますが、深く調査していくことで、さらに具体的な提案ができるかもしれません。今日はあっという間に過ぎてしまいましたので、またみなさんと議論する機会を持ちたいです。どうもありがとうございました。みなさんのこれからの活躍に期待しています。」
参加者
呉 佳氷(北海道大学大学院環境科学院環境物質科学専攻)
岡 紗雪(北海道大学大学院環境科学院 環境物質科学専攻)
加藤佳美(北海道大学大学院生命科学院生命科学専攻)
河本野恵(北海道大学大学院理学院数学専攻)
熊谷悠平(北海道大学大学院生命科学院生命科学専攻)
朱 瑞傑(北海道大学大学院総合化学院総合化学専攻)
茅原拓未(北海道大学大学院理学院数学専攻)
冨田永希(北海道大学大学院生命科学院生命科学専攻)
他12名
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堀内浩水(北海道大学大学院理学研究院URA/Ph.Discover協力教員)
大津珠子(北海道大学大学院理学研究院准教授/Ph.Discover担当教員)