大学院生によるレポートシリーズ「Ph. Dreams」の連載をスタートさせます。トップバッターは北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)に2020度採用された7期生の佐藤丈生さん(北海道大学生命科学院)です。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての補助期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動することが決まっています。
こんにちは。北海道大学大学院生命科学院に在籍している佐藤丈生です。私は精子形成時に遺伝子が適切なタイミングで働くにメカニズムについて研究しています。また、落語研究会に所属し、現在は新型コロナウィルス感染症対策のため自粛していますが、以前はほぼ毎週末、札幌市の老人ホームや町内会でお喋りさせていただいてました。
さて、理系大学院生の私が落語をしていると、「意外だね」とよく言われます。しかし、これまた「意外と」落語で培った経験は研究でも生きています。一番鍛えられたのは「対話力:コミュニケーション力」です。落語をしている最中は、自分ひとりの長話を聞いてもらうことになります。そのとき、演者はお客様の顔、笑い声、そして空気感を掴み取って、語りや所作を調節します。つまり、お客様と対話しながらお話を作るわけです。また、古典落語には八五郎(はちごろう)やご隠居といった様々な架空の人物が登場します。「八五郎は何を考えていたんだろう」、「ご隠居なら何と言うだろう」と、時空を超えて彼らと対話をすることも、人物描写のために重要です。加えて、落語を通して、様々な年代や職種の方と接する機会を持てたことで、多様な考え方や価値観への理解が深まりました。
大学では研究の進捗報告や論文紹介を他のメンバーに向けて行い、シンポジウムや学会発表では異なる分野の人と互いの研究について話し合います。さらに、研究アウトリーチを通して、専門外の人との対話も求められます。このように、様々な場面において対話力は重要であり、落語研究会での経験が生かされています。私は大学院生として、アカデミアの入り口しか経験していませんが、これからの研究活動、その後のキャリアパスに繋がる産業界、教育界など、社会のあらゆる場面で対話力は求められると思います。どれほどAIが世界を席巻しようと、やはり感情を持つ生身の人間同士の関わりは、決して無くならないと考えるからです。
もちろん、研究で必要とされる対話力は、落語のスキルと同じではありません。プロの落語家の方は、約3~5年間の前座修業の末に、二ツ目になって一人前と認められます。私も大学院やALPを修了する頃には、立派な二ツ目になれるように精進します。