Ph.Discoverに連携してくださっている株式会社神戸製鋼所様からインタビュー記事を寄稿していただきました。3名の若手研究員に釘宮敏洋さん(応用物理研究所長)が質問しながら、学位に関する考え方や仕事について語っていただきました。
株式会社神戸製鋼所の先端研究を担う「神戸総合技術研究所」。ここには現在、材料研究所、機械研究所、生産システム研究所、応用物理研究所、ソリューション技術センター、プロセス技術センター、AI推進プロジェクト部が集い、日々研究開発を行っています。
神戸総合技術研究所の正面玄関を入ってすぐ右の壁面に、学位取得者のプレートが設置されています。総合技術研究所には学位取得者をリスペクトする文化があるのです。
「応用物理研究所」は物理や電磁気をベースとした基盤技術研究所であり、2017年度に発足した新しい研究所です。現在、同研究所に在籍する研究員のうち、学位取得者は35%を占めます。学位取得後に研究所に配属された研究員もいれば、配属後に学位を取得した研究員(現在、数名が社会人博士コースに入学し学位取得を目指している)など様々です。応用物理研究所では、配属後に社会人ドクターコースに入学と学位取得を奨励しています。
学位取得者、あるいは目指している研究員へのインタビュー
応用物理研究所に所属する3名の研究員に登場してもらい、学位に関する考え方や仕事について、インタビュー形式で紹介します。3名とも応用物理研究所物性制御研究室に所属し、神戸製鋼所の素材事業の要となる物理分析技術を支える研究員です。
倉千晴:北海道大学大学院(総合化学院)修了、2017年度学位取得(工学)、物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム修了。2018年度株式会社神戸製鋼所入社、現在応用物理研究所在籍。
宮澤徹也:総合研究大学院大学修了、2018年度学位取得(工学)。2019年度株式会社神戸製鋼所入社、現在公益法人高輝度光科学研究センターに出向中。
山田敬子:東北大学大学院(物理)修了。2017年度株式会社神戸製鋼所入社、現在九州大学大学院(総合理工学府)社会人ドクターコースに在籍し、学位取得を目指しています。
なぜ学位を取得しようと思いましたか?
倉 )現象を解明していく面白さ。修士課程で終わらせたくないと純粋に思いました。
宮澤)学生時代に将来は「(継続して積み重ねていくことが大事で)巨人の肩の一部になりたい」と思っていました。研究職に就く前に、研究者として一人前でありたかった、それが学位取得だったと振り返っています。
山田)会社に入ってから「学位をとること=その分野の第一人者になること」ではないかと考えました。会社にいて、頼りにされる、求められる人材になりたかったのです。
取得まで苦労したこと、達成感などを教えてもらえますか?
倉 )今まで誰もやったことのない研究テーマに挑んだこと。Nature Energy にアクセプトされ、同時にリーティングプログラム修了と北海道大学大塚賞をいただくことができました。
宮澤)修士課程から大きく研究テーマを変えたこと。実験装置も一から作り大変苦労しました。成果がでたときは自らの仮説が検証できて、うれしかったことをおぼえています。
山田)大学で学んだ以外の分野での学位取得を目指しており、学ぶことが多いですね。まだ取得中ですが、「こつこつと続けること」、また「成果をしっかりとまとめること」の重要性を学んでいます。
社会人になって学位取得がためになったと感じた瞬間などを教えてもらえますか?
倉 )最初に感じるのは、仮説→検証→考察のサイクルをしっかりとまわすことができること。専門性だけでなく、こうした考え方はアカデミックだけでなく、企業の研究活動でも全く同じだと感じています。
宮澤)研究講習会で名刺交換の機会があり「博士(工学)」について多くの質問があり、これを機に自分の研究分野を知ってもらえ、研究者同士のコミュニケーションが広がるといったことがありました。
山田)私のまわりには学位取得者がたくさんおり、皆さんが妥協せずに調査、実験、解析、考察などすべてにわたってプライドをもって仕事をしているので、私もそうなりたいと思っています。
学位取得を考えている学生へ一言お願いします。
倉 )学位取得後の進路に関するネガテイブな情報を耳にすることもあり、迷っている方もいるかと思います。私は自身の就職活動を通して、多くの企業が博士人材に活躍してほしいと考えていることを実感しました。博士課程は教員から多くの指導を得られる絶好の機会であり、是非とも進学を検討してほしいと思います。
宮澤)学位取得後の自分の姿を想像してみるといいのではないでしょうか?目標設定やそれを達成するための行動プランの策定、さらにそこに向けての努力、学位取得にはそうした学びのプロセスがつまっています。ぜひ挑戦してほしいです。
山田)決して楽な道のりではないかと思いますが、私の職場には多くのサポートがあり、地道に研究を続ければ、社会人での学位取得も可能です。データから素直に解釈すべきこと、一方データから決めつけないことなど柔軟な考えを培っていきたいと思います。学位取得に向けてがんばります。
インタビューを終えて〜学位取得者が活躍できる場所がここにある
釘宮敏洋(インタビュアー):豊橋技術科学大学大学院(電気・電子工学)修了、2010年度学位取得(工学)、2016年度MBA取得(関西学院大学ビジネススクール)。1993年度株式会社神戸製鋼所入社、現在応用物理研究所長。
博士課程への進学=アカデミアコース、ととらえている学生も多いかと思います。実際、倉さんも同じようなことで悩んでいたようですが、民間企業で活躍できる場所がたくさんあります。また企業に入ったあとのライフイベントの観点からキャリア設計ができるのかという不安もあったようです。企業では個人のキャリア設計を支援する様々なしくみが導入されています。そうしたことを知ってもらうことが重要だと感じました。学生の皆さんも学位取得後の企業での研究、企業にはいってからの学位取得など、これを機会に考えてもいいのではないでしょうか。
現在、神戸製鋼所の総合技術研究所では、配属後においても学位取得を奨励しています。応用物理研究所も社会人ドクターコースで学位を取得した研究員が半数以上にのぼります。キャリア設計を自ら行う時代に入っており、博士課程からの企業への就職、企業に就職してからの学位取得など、様々であり、自ら意思をもって選択することが重要です。
研究開発に必要な論理思考や仮説検証アプローチなど、学位取得者はそれが当たり前にできる人材です。博士課程への進学=アカデミアコースととらえず、幅広い選択なり、キャリア設計を考えて多様な人材が活躍できる社会づくりを一緒にはじめましょう。