北海道大学理学部生物科学科(高分子機能学)では、キャリアパス教育の一環として、2、3年生を対象にした学科イベント「DCは語る」(DC:Doctoral Course=博士課程)を定期的に開催しています。博士後期課程の学生の研究生活や進学経験を聞くことで、進路の一つとして博士後期課程進学を考えてもらうことが目的です。2024年6月28日は、生命科学院 生命科学専攻 生命融合科学コース 博士後期課程1年の齋藤 大輝(さいとう だいき)さんが学部3年生に向けて話をしました。
なぜ一倍体は育たないのか?
脊椎動物は全ゲノムを2セット(それぞれ母親と父親に由来)持った状態が正常です。この状態を「二倍体」といいます。全ゲノムを1セットしか持たない「一倍体」は、育つ途中で体の形が異常になり死んでしまいます。なぜ一倍体だと育たないのか、僕はゼブラフィッシュの胚を使って研究しています。
生きもの好きな少年は研究の道へ
子どもの頃、生きものを題材にした本や番組、カードゲームが好きでした。生物の知識なら周りの人に負けない自信がありました。北大に入学し、長年の興味であった生物学を、高分子機能学という視点から解き明かしたいと思い進学しました。その中で、生物の個体を扱える研究室を探して、細胞装置学研究室に入りました。ちょうどその時、ゼブラフィッシュの一倍体を研究していた先輩が、仲間を探していたので弟子入りしました。
研究室での紆余曲折
先輩の教えに従ってデータを取っているうちは順調でした。ところが、博士前期(修士)課程1年で先輩が別の機関に転出してしまうと自分一人になり、研究の進め方が分からなくなり、スランプに陥りました。
指導教員である上原亮太准教授からのアドバイスを受け、細胞のサイズという新しい視点で先輩のデータを再解析しました。その結果、一倍体の胚で特異的に生じる中心小体の減少が、小さい細胞で起こりやすいことを発見しました。中心小体は細胞分裂や細胞の配置等を制御する細胞内小器官であり、その数が異常になると胚の形や機能の異常につながります。突破口となるデータを自分の力で見つけ、研究の発展も見えてきたことで、「研究って楽しい」と思うようになりました。そこで、かねてからの希望であった博士後期課程への進学を決めました。
自分の目と体と心で確かめて
博士生活の辛いところは、基本的に厳しい日々続くことです。実験内容によっては半日以上、研究室に滞在しなければなりません。一方で、最新の研究機器を自分のアイデアで使えるなど、他では味わえない楽しさもあります。中学生の頃から、得意なことで頂点を目指したいと思っていました。今は研究室のPI(研究代表者)になることが目標です。
みなさんは、これから研究室や大学院、企業といった様々な選択肢の中から進路を選択することになります。先駆者の言葉を自身の決定の参考とすることは悪いことではありません。一方、人によって背景は様々です。僕の場合は、教授に恵まれや研究テーマを引き当てるような、『運の良さ』によって成立しています。けれども、人生は実験のように『成功したプロトコルに従えば高確率でうまくいく』とは限らないと思います。故に僕は、実際に自分の体で研究に挑戦してみて、その実態を確かめることをおすすめします。その上で自身の心に従って決めてください。