2021年度北海道大学スマート物質科学を拓くアンビシャスプログラム(以下、SMatS)が開講する「博士課程DX教育プログラム:北海道富良野市のスマートシティ推進支援」がスタートしました。この授業に協力してくれる日本オラクル株式会社によるオンラインガイダンスの模様をダイジェストにまとめて紹介します。
日本オラクル株式会社:
米国オラクルコーポレーション (Oracle Corporation)が、1985年に日本で設立した法人。国内を拠点とした情報システム構築のためのクラウドサービス、ソフトウェア製品、ハードウェア製品、ソリューション、コンサルティング、サポートサービス、教育の事業を展開している。
石森浩一郎教授(プログラム担当/北海道大学副学長)の挨拶
みなさん、こんにちは。最近DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を様々なシーンで聞くようになりました。ですがDXの本当の意味を知っている人はどれだけいるのでしょうか。私も正直、答えられません。これまで紙で処理していた仕事をデジタル化すればいいという安直な話ではないはずです。SMatSで学んでいく皆さんも、私たち研究者もDXの本当の意味、効果を理解しなければ、これからの社会で期待される役割を果たすことは難しいと思います。
今回は、IT分野で先進的な取り組みをされている、日本オラクル様に協力いただき、実際に地方自治体とDX化に向けてどのような活動をしてきたのか紹介してもらうことにしました。さらに、これから始まるプロジェクト「北海道富良野市のスマートシティ推進支援」に皆さんに参加してもらい、DXの本当の意味は何なのか、肌で体験してもらいたいと考えています。物質科学の専門分野とは、関係のないプロジェクトと捉える方もいるかもしれません。しかし、DXは社会のあらゆる分野で必要とされ、その分野を発展させるカギとなります。先進的な大学院教育であるSMatSらしいこのプロジェクトに参加することで、我々の社会を大きく変革するDXについて正しく理解し、ここで学んだ経験をこれから先の進路で役立ててもらえることを願っています。
七尾健太郎氏の挨拶/日本オラクルの紹介
オラクルのDX推進室をリードしている七尾健太郎と申します。オラクルに対してアメリカに拠点を置く外資系IT企業というイメージを持たれている方が多いと思いますが、日本を拠点に35年間事業展開してきました。日本の市場に株式公開している珍しい外資系会社かもしれません。ですから、日本に深くコミットしている会社とお考えください。札幌にも北海道支社があります。
私たちは情報システム構築のためのクラウドサービスを強みに事業展開してきました。最近特に力を入れているのは、IT技術(データベース管理システム)を、社会課題の解決に利用する取り組みです。日本も科学技術政策として、Society5.0やスマートシティの推進に力を入れようとしており、経済的発展だけでなく、社会課題の解決を両立させようとしています。
グローバル企業としてのオラクルコーポレーションの取り組みを紹介
これはアフリカ中央部に生息するマウンテンゴリラの写真です。しばらくの期間、世界で700頭弱しか生息が確認されていなく、絶滅の恐れが最も強い「絶滅危惧1A類」に分類されていました。オラクルは、このマウンテンゴリラの生態系を解明し、一頭でも生息数を増やそうという研究に30年以上支援をしてきました。研究資金の提供からスタートし、今ではクラウドを利用したデータ管理システムを用意し、研究者がより詳細で正確な生態記録を残せるようにしました。それまでは研究者が、紙ベースで記録していたので、その記録を価値のある情報として共有・活用できなかったのです。(動画:“霧の中のゴリラ” からクラウド上のゴリラへ)今では、1千頭超にまで増え、レッドリストが少し引き下げられたそうです。また昨年来からCOVID-19によって世界中が右往左往している中、2週間で治験を管理するシステムを構築しました。はじめは不具合もあったのですが、失敗を恐れずに、改良を重ねた結果、よりよいシステムがアメリカを中心に使われ始めています。
DX:「変革」について
さて、今日のテーマに移ります。皆さんと一緒に「変革」について考えていきましょう。変革は英語でTransformation(トランスフォーメーション)と言い、最近はDigital(デジタル)が加えられ、デジタルトランスフォーメーション、略してDXと言われるようになりました。DTではないんですよね。「trans」とほぼ同じ様に使われるのが「cross」という言葉で英語圏ではアルファベットの「X」で表されることがあります。このXこそが、DXのXにあたります。
ある酪農家のDX事例
さっそく私たちが地域と一緒にDXに取り組んでいる例を紹介します。せっかくの機会なので、北海道を事例にします。皆さん、ドローンは知っていますよね。そのドローンを利用した取り組みです。北海道は酪農王国で、多くの酪農家は広大な土地を管理しなくてはなりません。そこで何が重要かというと、良い牧草をたくさん育て、牛に食べさせ、良質なミルクを生産することです。良い牧草が生えている土地に、牛を誘導し、生育の悪い牧草地があればその土地を休ませる必要があります。しかし、社会全体で少子高齢化が進んでいる中、一人、もしくは少ない家族の酪農家が、それらの作業を全てこなすことは限界になっていました。
このような背景をふまえ、鳥の目としての「ドローン」の活用に注目したのです。ドローンを牧草地に飛ばし、その土地の画像を記録していきます。その画像を解析し、良質な牧草、休ませるエリアなどを瞬時に把握できるようにしました。それだけではありません。もう一歩踏み込んで、牛が通るゲートの開閉を自動化しました。ドローンの解析結果に基づいてゲートが自動で開閉し、牛を自在に誘導できる仕組みを作りました。このシステムとデータ管理をオラクルクラウド上で行い、安全に手間をかけずに広大な土地を管理できるようになったのです。さらに副次的な多くの効果をもたらしました。労働にかけていた時間を子育てなど、別の活動に使えるようになったのです。放牧型のミルクは日本で2%しか搾乳されていません。放牧型の美味しいミルクをたくさん提供できれば、売り上げアップにも繋がります。
このような仕事をしていくと、DXとは何か改めて僕らもよく考えます。DXが2004年に初めて提唱された時の定義は、「デジタル技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことでした。また、最近の日本政府の方針に目を向けると、経済発展と社会課題解決が両立するSociety 5.0に向けてスマートシティで実験していくと言っています。それを受けて、経団連はDX提言書を発行し、Society5.0実現のためには、DXに加えて、多様な人々の想像力と創造力の融合が重要、と言っています。このように、DXはスマートシティの推進と非常に相性が良いのだと思います。
一方、残念ですが、DXが成功している事例は日本でほとんどありません。その少ない例の中から、オラクルが経験的に成功の鍵だと考えているのは、一度俯瞰してみることです。これまで繋がりのなかった集団と一緒に課題を考えてみるなど、まさに産官学など多様な集団が連携して、共に考えることがポイントです。
これから北海道富良野市を舞台にしたスマートシティプロジェクトがスタートしようとしています。富良野市はオラクルなどと「産官」の繋がりはできていますので、そこに3つめの「学」となるみなさんが参加してプロジェクトを推進していくことに期待していますし、この実現を楽しみにしています。
「北海道富良野市のスマートシティ推進支援」について
オラクルの松井雄介です。これから富良野市を舞台にスマートシティの推進についてみなさんと一緒に考えていくことになります。今回、大学院生のみなさんにはIT企業に就職した社員になったと想定してもらい、クライアントである富良野市様に対して、まちが抱えている課題に対しITを活用したDX提案をします。その作業を通してDXによる社会課題の解決を体験してもらいます。今後、月1回程度の頻度で開催するワークショップを通じて議論を深め、クラウド環境にも実際に触れてもらいながら、最終的には課題解決の提案をプレゼンテーションしてもらう計画です。地域固有の課題もニーズも様々です。それらを調査し、デジタル技術を活用した新しい価値の創造がこのプロジェクトから生まれることを期待しています。
開 催:2021年4月22日
主 催:Ph. Discover/北海道大学スマート物質科学を拓くアンビシャスプログラム(SMatS)
協 力:日本オラクル株式会社