大学院生によるレポートシリーズ「Ph. Dreams」連載の23回目を担当したのは北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(以下ALP)9期生の黒須大樹さん(2022年度採用/北海道大学大学院総合化学院/北大DX博士人材フェローシップ生)です。ALPとは物質科学を中心に分野横断的に学び、社会人として高い能力を養い、学位取得後には学術・研究機関だけではなく民間企業など社会の広い分野で国際的に活躍する人材を育成するための教育プログラムです。2020年3月に文部科学省の補助金事業としての期間は終了しましたが、北大の事業として継続して活動しています。
私は、細胞の老化現象に関する研究をしています。具体的には、生命活動を行う上で最も重要な制御因子の1つであるPPM1Dと呼ばれる脱リン酸化酵素に注目して、細胞の老化がどのようにして制御されるかを明らかにすることが目的です。小児に特有な病気は数多くあります。治すことが不可能であった疾患の原因を原子レベルで明らかにし、全ての子どもが大人になれる世界を実現することが私の夢です。
あらゆる視点から生物を科学する
特定の学術領域に縛られていては、生命に対する理解を深めることは非常に困難だと思います。私は生命を理解するために、専門である化学の視点はもちろん、機械学習をはじめとする情報科学も学び、実際の研究に応用し、学会でも発表しています。高校生の時には、工業科で建築を学んでいました。この知見も研究に応用したいと考えています。一見すると関係性が薄いと思うかもしれませんが、不可能を可能にするような研究というのは、誰もが予想しなかったところから生まれるものだと信じて研究に励みたいです。
『もしかしたらできるかもしれない』を大切に
身の回りの「不思議だな」と思った現象について実際に手を動かして解析してみることが1つの趣味になっています。具体的には、ふと思いついた「不思議だな」、「もしかしたらできるかも知れない」と思ったことを、自宅のパソコンで情報科学の手法を用いた解析により、独自にタンパク質の構造と機能の関係性を明らかにするソフトウェアの開発に取り組んでみるなど、自由な研究に取り組んでいます。また、このような場面で必要となるスキルと知見はKaggleという世界的な機械学習のコンペティションに参加して、深めています。身の回りの色々なことに疑問を持って、好奇心の赴くままに取り組んでみるということをどのような場面でも大切にしています。
人馬一体を大切にする
私のもう1つの大きな趣味は競馬を観ることです。競走馬が競争して、一着を目指すという比較的単純なルールであり、馬は軽い方が早く走れます。しかし、競走の途中で落馬などにより騎手がいなくなってしまった馬は、なかなか一着を取ることができません。これは、一見重くなって不利のように見えても、騎手との密接な連携により、文字通り人馬一体となっているからだと思います。研究生活ではもちろんのこと、日常生活においてそれぞれの長所が融合することで、一人では成し遂げられないことができるものと信じています。