ALP(北海道大学博士課程物質科学リーディングプログラム)経験をアピールし新分野の企業に応募
博士後期課程時代の専門研究はヒドリドー電子混合伝導体の創製です。世界でもまだ先行研究が少ないテーマでしたが、北海道大学物質科学フロンティアを開拓するAmbitiousリーダー育成プログラム(ALP)のさまざまな支援を活用できたおかげで必要な実験データを集めることができ、最終的に『Nature Energy』に論文がアクセプトされました。
就職活動中、ALPの経験をアピールすると、どの企業も非常に高い関心を持って聞いてくれました。鉄鋼等の材料を扱う当社に声をかけてもらったときは「自分の専門は化学系だけれど大丈夫かな?」という不安もありましたが、採用担当者から「これまでやってきたことを活かせる場があります」という熱心な説明を聞き、応募を決意しました。
グループワークやアウトリーチを先行体験
入社後は新人対象のものづくり研修があり、配属が異なる同期8人が1チームとなりロボット作りに取り組みました。異分野の研究者同士が集まって目標を達成するグループワークは、実はALPのカリキュラムで何度も経験済み。お互いに誰が何をできるかを把握し、役割分担をして実行するという一連の流れにためらうことなく入っていけたと思います。
私の場合、ロボット作り自体が初めてでしたので機械や部品の加工については全くの専門外でしたが、最後にそれを発表するスライド作りに自分で手を挙げました。
専門外の人が聞いてもわかりやすいプレゼンテーションは、ALPで鍛えられた重要な力の一つです。その後社員の家族向けにイベントを考えるときも、アウトリーチイベント「サイエンスアゴラ」で子どもたちを対象に人工イクラをつくるワークショップを開催した経験がおおいに役立ちました。こう考えていくと「ALPでの全ての学びが活かされている」というのが、今のいつわらざる気持ちです。
社会人博士や学会参加も会社がサポート
現在、私が手がけている研究テーマの一つはタブレット用折りたたみディスプレイに応用する、折りたたんでも断線しない金属配線材料の開発です。研究の手順は学生時代と変わりませんが、材料科学や計算科学という新しい分野について周囲の方々に教えてもらいながら基礎知識を増やしている段階です。
私の部署では約20名の研究員の6割が博士の学位を持っており、しかも大半の先輩たちが入社後に会社に奨励されて学位を取得した“社会人博士”です。この他に学会参加も会社の積極的な後押しがあり、私自身、入社2年目にアメリカを含め3回ほど、前述の折りたたみディスプレイについて口頭発表をしてきました。入社後はこうしたアカデミックな活動とは縁遠くなると思っていたので予想外の驚きでした。企業に進んでも研究者としてのキャリアを伸ばすことができるのだと実感しています。
専門研究に加えて「知」の引き出しを増やす
「社会に出てからも自分の専門分野をそのまま活かしたい」とは博士取得者なら誰もが思うことですが、視点を変えると新しい分野に挑むということは自分の引き出しが増えていくようなもの。知識が増えるたびにもとの専門分野にフィードバックできることも増えていくことを思えば、今は研究の裾野を広げていくのがとても楽しみです。
企業に入った以上、具体的な納期を意識しながら新しい知見で社会に役立つ成果を出すことは研究員共通の目標です。その一方で当社の場合は会社側も、学会参加のように私たち研究員が成長できる環境を整えてくれているので非常に心強く感じています。
おそらく企業によって環境はさまざまだと思います。不安に思うことはどんどん質問してみてください。皆さんの納得いくマッチングが成立するよう応援しています。
※所属等は2020年2月当時のものです。