半導体業界での成功に至るまでの失敗や、業界を揺るがす不況の波――次なる議論は、エンジニアたちが逆境に向き合い、どう乗り越えてきたかという、より深い「生き様」に迫っていきます。
数十億円の損失と向き合う: 失敗を許容する文化
キオクシアの塩沢氏は、GAFAM―Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、 Microsoft―といったトップ企業に、自分たちからの提案に対して「それ良いね」と言ってもらいディスカッションができる瞬間に非常に達成感があると語りました。
一方、富士通の吉川氏が披露した失敗談は、性能値を間違えたまま設計を進め、完成したチップが期待した性能を出さなかった経験です。損失額は数十億円にのぼる可能性がある中、苦境の彼を救ったのは、富士通に根付く「絶対にエンジニアには責任は負わせない」という文化だったと言います。この経験から吉川氏は、個人を萎縮させず、チーム全体で課題解決に向かう文化こそが、大きな挑戦を可能にする土壌なのだと力説しました。
「なにくそ!」の精神で乗り越えるシリコンサイクルの荒波
半導体業界はシリコンサイクルと呼ばれる浮沈が激しいことで知られています。塩沢氏(キオクシア)は、売上が落ち込んだ時にも我慢して投資し、研究開発を続けることが、3年後の波に乗るために重要だと述べました。苦しい時期でも「なにくそ!」という気持ちで頑張ったと振り返りました。
転職について、吉川氏は、「今の職場でやれることは全てやったので、次の新しいステージに進みたい」というポジティブな動機が成功につながるとし、上司としても背中を押すと説明しました。一方で、職場が嫌だからというネガティブな理由で出ていく場合は、後悔することになると言って引き止めると話しました。

量子コンピュータは半導体を置き換えるのか?
学生からは2つの質問が出ました。
① 量子コンピュータの未来について
吉川氏は、量子は可能性の一つであるとし、既存のデジタル半導体が持つ60年以上の技術蓄積と裾野の広さから、量子コンピュータがデジタル半導体に置き換わることはないだろうと予測しました。むしろ、量子をデジタルとのハイブリッド技術として取り込み、一部の要素を量子にオフロードする形で進化していく可能性が高いという見解を示しました。塩沢氏はメモリメーカーの立場から、将来の量子コンピューティングに必要なメモリを開発する必要性を感じており、現在の0/1の決定論的な記憶の限界を超えて、量子の「重ね合わせ」を記憶する方法を探求したいと個人的な考えを述べました。
② 学生時代に学ぶべきこととは?
「もし学生時代に戻れるなら、何を学びますか?」に対し、登壇者たちはそれぞれの経験に基づいた貴重なアドバイスを贈りました。
吉川氏は二つ挙げて、一つは、あらゆるデータの理解に不可欠な「統計学」。もう一つは、イノベーションが生まれる現場のダイナミズムを体感するための「シリコンバレーへの留学」としました。
塩沢氏は、より普遍的なスキルとして「情報ITの勉強」と、グローバルな舞台で活躍するための「英語」の重要性を強調しました。
永井氏は、「Rapidusが実現する2ナノ技術で、一体何が作れるのかを考える」とし、未来の技術を自分事として捉える姿勢を促しました。
専門分野の学習に留まらず、将来を切り拓くための行動に関する具体的なアドバイスが続き、学生たちは真剣に耳を傾けていました。

最後に、北海道大学 理事・副学長/半導体フロンティア教育研究機構長の山口淳二氏より閉会挨拶がありました。
北海道大学では、2025年4月に半導体フロンティア教育研究機構(IFERS)が設立され、さらに北海道大学は半導体人材育成拠点形成事業に採択されたことを報告。北海道大学が中心となって道内全域の半導体人材育成プログラムを進めたいと述べました。
また、複数の半導体に関わる共通授業科目が開講されており、技術だけでなく、社会や世界情勢の中で半導体を捉えることができる半導体人材の育成を進める具体的な体制が整いつつあることが告げられました。
それぞれの夢をもって半導体業界の最前線で活躍する登壇者の熱い言葉は、学生たちの知的好奇心を刺激し、カンファレンスは閉会しました。


Part3以上
主催:北海道大学大学院教育推進機構/Ph.Discover
共催:北大理学研究院/北大半導体フロンティア教育研究機構/北大総合イノベーション創発機構データ駆動型融合研究創発拠点
※肩書、所属は、カンファレンス開催時のものです。