私が大学生活を過ごした1980年代は、いわゆるバブル景気のピークに向かって世の中が沸いていた時代でした。それまでは、博士号取得者の多くはアカデミアの道に進んでいましたが、この頃から民間企業へ就職する道も少しずつ開かれていたように思います。そのような状況の中で、私は修士課程で行っていた研究が面白く、もうしばらくの間、続けたいという気持ちが強まり、就職を先延ばしにして博士後期課程に進学しました。バブル景気の真っただ中だったからできた選択かもしれません。3年後、博士後期課程を単位取得退学し、民間企業に就職しました。博士の学位を取得してから入社するはずでしたが、結局、大学を離れる前日まで実験をし、あまり心の準備もできないまま、社会に飛び込んだことになります。希望していた会社に入社できたのですが、昼は会社の研究、夜は博士論文の執筆という二足のわらじを履く状態になりました。1年後、博士の学位を取得し、研究者としての仕事に専念したいと考え、離職しました。その後、アメリカでのポスドクを経験してから母校に戻り、現在に至っています。紆余曲折はありましたが、そのような人生のほうが多いのかもしれません。自己紹介も兼ねて紹介させていただきました。
博士人材と民間企業つなぐ架け橋として
私が院生の頃は博士後期課程では授業は全くなく、ほとんどの時間を研究に費やしていました。その結果、圧倒的専門力は鍛えられたと思いますが、多様な社会で働くために必要な総合的基礎力は、意識しないと身に付けられなかったように思います。そのため、博士後期課程修了者が企業からは敬遠される傾向があったと言われています。現在は、大学院教育が充実し、本プロジェクトで育成しようと掲げている俯瞰力、内省的知力、国際的実践力、人的ネットワーク形成力等を養うことができる多様な授業やプログラムを受けられるようになっています。また、このような教育を受けた博士号取得者を必要とし、積極的に採用を考えている民間企業が増えています。ところが、人材を求めている会社とそれにマッチする学生を結び付ける機会は多いとは言えません。Ph.Discoverはそのような機会を提供する窓口として機能することが目的の一つです。学生と企業、双方からのご要望を受け付けます。まずは気軽にご相談いただければと思います。【相談窓口の連絡先はこちらから】
すべての道がローマに通じるなら、ドン・キホーテよ、でたらめに行け!
私の場合、前述の通り民間企業で働いた期間は短かったのですが、企業人を続けていたらどうなっていただろうと考えることもあります。そのような時は、恩師の先生が最終講義で紹介された「すべての道がローマに通じるなら、ドン・キホーテよ、でたらめに行け!」という言葉を思い出し元気づけられています。コロナ禍のこの状況では簡単に勧めることはできませんが、キャリアの選択肢を広げ、「迷ったら先が読めない道に進む」という選択も、長期的な視野で見ると一考に値するかもしれません。